その独占欲に、たじたじ





優香と翔真が見つめ合う。
佳代「相変わらず仲良しねぇ 早く結婚して 孫ちゃん作ってくれたら良いのに」
冷やかす佳代に優香が焦って言い返す。
優香「なっ 何言ってるの⁉︎ まだ高一だよ⁉︎ 子供なんて……」
佳代「キラキラの高校時代なんて一瞬よ! あっという間に過ぎていくわ」
優香(三年もあるのに 一瞬なわけないじゃん…… )



そして佳代が、翔真に対してはまだ子供の話を続ける。
佳代「赤ちゃんって良いわよねぇ 翔ちゃんは男の子と女の子どっちが欲しい?」
翔真「俺は 優香に似た女の子が欲しいです 食いしん坊の甘えん坊で 泣き虫な子だと 守ってあげたいって思いますね」
ニコニコしながら答える。


勝手に突っ走る二人をまともに相手にすることがバカらしくなってくる優香。
優香(何で子供の話なんか…… そもそも そういう行為しなきゃ 赤ちゃんなんてできないし…… 私もいつかは誰かとする日が来るのかな……?)
優香が翔真を見て、エッチなシーンを想像してしまう。
【想像開始】
ベッドに押し倒される優香。
制服が乱れ、胸元からチラリと下着が見える。
翔真がいつもは見せない甘い表情をする。
上半身裸で、引き締まった胸板、腹筋にドキッとする優香。
翔真が優香に覆い被さる。
その時、翔真の肩幅の広さに男らしさを感じてまた更にドキドキする……
【想像終了】


翔真でいやらしい想像をしてしまったことを恥じる優香。
優香(もう一分一秒たりとも翔真のこと考えないって決めたのに 何でこんなこと考えてんだ…… お母さんが変なこと言うから……)
大きなため息をつく優香を佳代と翔真が不思議そうに見つめる。


そこへ突然、佳代のスマホが鳴り始める。
佳代「もしもし どうしたの⁉︎ ……えっ すごい! 絶対行がなきゃダメだよ! こっちは大丈夫 もう高校生なんだから 安心して行ってらっしゃい」
電話を切った佳代がニヤリと笑う。



優香と翔真が首を傾げる。
佳代「翔ちゃんのお母さんからで ご主人と二人で海外赴任が決まったみたい!」
その言葉に優香と翔真が驚く。
佳代「だから、今日から翔ちゃんはここで一緒に暮らすことになります イェーイ!」
優香「はぁ?」
勝手に盛り上がる佳代を冷たい目で見る優香。


興奮状態なのは佳代だけでなく、翔真もだった。
翔真(同居 優香と一つ屋根の下 これは…… )
何やらニヤニヤし始める翔真。
優香が悪寒を感じ始める。
優香「嫌だよ! 家近いんだから わざわざ同居しなくたって良いじゃん!」
同居を拒む優香に対して翔真が挑発するように言う。
翔真「俺のこと なんとも思ってないなら 別に良いだろ?」
渋る優香に対して翔真が更に挑発する。
翔真「もしかして…… 同居したら俺のこと意識しちゃいそうで 怖いの?」
翔真は確信していた。
翔真(こういう言い方をすれば 優香はきっと……)



優香が苛立ったように挑発にのる。
優香「そんなわけないでしょ! 良いわよ 同居でもなんでも してやるわよ」
翔真(ほらやっぱり なのに何で…… 他の奴やを好きになろうとするんだよ)
翔真が優香を切なそうな目で見つめる。
翔真(頭良くて カッコいい お前の理想は俺だろ? あの時 お前から結婚するって言ったのに……)
ため息をつく翔真を見て優香が思う。
優香(素直じゃない私に呆れてる……? 可愛くなれたら 私たちの関係 もっと違ってた?)
優香もため息をつく。




タイトル挿入『その独占欲に、たじたじ』




◯浴室

浴槽に浸かりながら優香が考える。
優香(これから毎日 翔真と顔を合わせるのか…… もう少し早ければ 嬉しかったけど 今はもう……)
優香(自分から宣戦布告して やっぱ好きなんて言えない もし言ったら……)
翔真に冷笑されシーンを想像する優香。



優香「やだやだ  何でまた……」
知らず知らずのうちに翔真のことを考えてしまう自分に嫌気がさす。
優香がブツブツ言いながら浴室の扉を開けると――
畳んだタオルを持ってきた翔真と目が合う。
優香「……えっ」
驚き過ぎて素っ裸の優香が思考停止する。
翔真が顔を真っ赤にして優香から顔を逸らす。
翔真「バカッ! 早く隠せよ……」
優香の思考がようやく動き始める。
優香「ギャアーー!」



優香の叫び声を聞いた佳代がソファに腰掛け、うっとりした顔で結婚指輪を見つめて呟く。
佳代「若いって良いわね パパ……」



顔を赤らめた翔真がソファに腰掛けて項垂れる。
パジャマを着た優香がカンカンに怒って脱衣所から出てくる。
優香「ちょっと! わざと入ってきたでしょ⁉︎」
翔真「はぁ? ちげぇし ちゃんと鍵かけとけよ」
優香「逆ギレ? まずは謝るのが筋でしょ⁉︎」
翔真「考え方を変えれば 俺だって 被害者だかんな」
翔真(優香の裸見て 何もできないなんて……)
優香(見たくない身体を 見せられたって言いたいの⁉︎ ホント最低)



優香が泣きそうな顔で翔真に言う。
優香「嫌い 嫌き 大っ嫌い! もう顔も見たくない!」



優香がそのまま二階の部屋にこもる。
頭を抱え、ため息をつく翔真。
そのやりとりを見ていた佳代が呑気に言う。
佳代「こういう波が 二人を熱くするのよねぇ」



お茶を飲みながら微笑む佳代を、泣きそうな顔で見つめる翔真。
佳代がニコッと笑って翔真に仲直りの方法を教える。




〇翌日の朝、優香の家のキッチン

昨日のことを引きずる優香が不機嫌そうに起きてきて自身のお弁当を作り始める。
優香(翔真なんて 大っ嫌い)
佳代が翔真の気持ちを代弁する。
佳代「お母さんが タオル持って行くように お願いしたのよ そしたらタイミングよく優香が出てきちゃって……」
佳代「もう怒らないであげてよ あれから翔ちゃん 『ごめん』って泣いてたわよ」



佳代の言葉を聞いた優香の怒りが半減する。
優香「翔真は?」
佳代「ショック受けて 昨日の夜 帰っちゃったわよ」
罪悪感を感じる優香の表情が暗くなる。
それを見た佳代がクスクス笑いだす。
佳代「冗談よ 荷物が何もないからって帰ったの 今夜からはこっちで寝ると思うわよ」
佳代がそう言って優香の物より大きなお弁当箱を差し出す。
優香「え?」
うすうす感づいているような顔をする優香に対し、佳代が笑って言う。
佳代「お弁当作ってあげたら きっと翔ちゃん 喜ぶと思うな」



優香(何で私が? 彼女でもないし そもそも忘れようとしてるのに……)
渋い顔をする優香に佳代が助言する。
佳代「新しい恋するなら 今から料理の練習もして 胃袋ガッチリ掴めるようならないと いい男は手に入らないわよ」
優香(そうだ ハイスペック男子を手に入れないと! ……翔真は練習台だと思えば良いのか)
やる気になったような顔を見せる優香に対して佳代が微笑む。
佳代(ホントに素直で可愛い娘)




自分と翔真の分のお弁当を作る優香。
お弁当ができる頃に制服に着替えた翔真が玄関の鍵を開けてリビングに入ってくる。
佳代「翔ちゃん おはよう!」
翔真「おはようございます」
翔真が優香に近づく。
気まずそうな顔をして優香にチョコを差し出す。
翔真「……昨日はごめん」
差し出されたチョコを見て優香の口角が少し上がる。
優香(こっ! このチョコは……)
ご機嫌取りのチョコにゆっくり手を伸ばし、優香が誤魔化すように言う。
優香「しょうがないから 許してあげる……」
受け取ったチョコを見つめてニコニコする優香。
それを見た翔真が思う。
翔真(……マジでちょろい)
佳代と目が合う翔真。
佳代が親指を立ててグッドサインをする。



優香ナレーション「一難去って また一難 この時の私はまだそれに気がついていない」