大佑が見つめるその先に居たのは——
英秀高校の制服を着た翔真だ。
バッグを肩にかけ、本を片手に誰かを待っている様子。
その人物に気がついた彩音が、珍しく興奮したように言う。
彩音「ヤバい めっちゃイケメンが居る!」
彩音「しかもあの制服…… 超進学校じゃん 誰待ってるんだろう?」
彩音が釘付けになる方を優香も見る。
優香「うわっ……」
優香が思わず呟き、慌てて彩音の後ろに身を隠す。
困惑する彩音。
彩音「えっ? ……まさかッ!」
優香の存在に気がついた翔真が持っていた本をバッグの中にしまい、彩音と優香の方へ歩き出す。
イケメンが近づいて来ることに緊張する彩音。
宣戦布告した相手が仕返しに来たと思い、緊張する優香。
二人のすぐ近くで立ち止まる翔真。
翔真「優香 一緒に帰ろう」
翔真が照れたように彩音の後ろに隠れる優香に言う。
優香(えっ?)
予想外の言葉に拍子抜けする優香。彩音の服を掴みながら恐る恐る顔を出し、翔真を見る。
ほんのり頬を赤らめる翔真と目が合う。
優香(どうした? 昨日と態度が全然…… )
眉間にシワを寄せて首を傾げる優香。
そこへ大佑が割り込んで来る。
大佑「悪いけど 俺ら これからデートだから」
そう言って強引に優香の手を引いて歩き出す。
優香(えぇーーー!)
ただただ驚いて、大佑の意のままに動く優香。
優香「滝本くん! 何であんな嘘……」
困惑する優香。
大祐が突然立ち止まり、振り向いて真顔で言う。
大佑「本気でデートしたいって思ってるよ 日向と……」
思わずドキドキする優香。
優香(新しい恋…… )
見つめ合う二人を引き裂くように翔真が優香を背後から抱きしめ、大佑の手を振り払う。
翔真「……勝手に触んなよ」
低い声で大佑に冷たく言う。
大佑も翔真を睨みつけて問う。
大佑「はぁ? 彼氏面すんなよ」
バチバチと火花が飛び散る中、優香が気まずそうにする。
そこへ、目をハートマークにした彩音が翔真に近づき、翔真の手を両手で握りしめて問う。
彩音「これからみんなで カラオケ行きません?」
将真、優香、大佑が同時に発する。
「えっ?」
タイトル挿入『その独占欲に、たじたじ』
◯平日夕方、カラオケボックス内
三人は彩音の圧に勝てず、四人でカラオケへ。
翔真にべったりくっついて離れない彩音。
大佑と優香が翔真に向かい合うように並んで座る。
タッチパネルを一緒に見ながら楽しそうに話す大佑と優香。
それを切なそうに見つめる翔真。
そんな翔真を見つめる彩音がニコッと笑って翔真の耳元で言う。
彩音「可哀想…… こんなに『好きだ』って顔してるのに 何で優香は気づかないんだろう?」
翔真が顔を赤らめて彩音を見つめる。
彩音がクスクス笑う。
彩音「ずっと好きだった幼馴染のことを忘れて 新しい恋 始めるらしいですよ?」
そう言って優香を指差す彩音。
翔真から怒りのオーラを感じる彩音がさらに煽る。
彩音「優香は彼のこと気になってるんだって しかも彼も……」
彩音「もう付き合うのも 時間の問題……」
彩音の言葉を最後まで聞かずに翔真が勢いよく立ち上がる。
すごい威圧感の翔真に彩音も大佑も驚く。優香にいたってはブルブル震え始める。
優香(翔真 めちゃくちゃ機嫌悪いんですけど…… )
殺気だった目で優香を見つめる翔真。
翔真の顔を見たくない優香が、大佑の肩に顔を埋める。
その時、大佑と彩音は同じことを思う。
(それ 今 絶対やっちゃダメなやつッ!)
優香のその行動を目の当たりにした翔真が、どすの利いた声で一言。
翔真「おい 帰るぞ」
あまりの恐怖に、誰も嫌とは言えない。
翔真と優香が帰るのを、彩音と大佑が指を咥えて見つめている。
二人が立ち去った後の彩音と大佑は、張り詰めていた糸がプツンと切れたように全身の力が抜ける。
彩音「あれ ヤバい人だね ヤクザかなんか?」
大佑「中学の時はそうでもなかったんだけど……」
大きなため息をつく二人。
彩音が顎に手を当て、推測し始める。
彩音「昨日 優香が『好きでいるのやめる!』って彼に宣言したらしい それで焦り始めたのかな……」
彩音「さっきだって たっきーが優香を好きだって 話したら めちゃくちゃ嫉妬してたし」
大佑が閃いたように彩音に言う。
大佑「それってさ…… あいつが全然余裕ないってこと? 俺の方が優勢だってことじゃね?」
ニヤニヤする大佑。
彩音「優香は彼への想いを吹っ切ろうとしてるし 今がチャンスだよ! 一気に畳みかければきっと……」
彩音と大佑が怪しい笑いをする。
◯平日18時、優香の家の前
無言のまま翔真が優香の手を引いて歩き、優香を家の前まで送る。
そのまま何も言わずに立ち去ろうとする翔真。
ちょうどその時、家の玄関ドアが開き、中から優香の母、佳代が心配したような顔で出てくる。
佳代「ちょっと どこ寄り道してたの⁉︎ 女の子が一人で……」
翔真の存在に気がつくと、佳代の態度がコロッと変わる。
佳代「あら 翔ちゃんが一緒だったの! それなら早く言いなさいよ! ねぇねぇ ご飯食べてって⁉︎」
その発言に嫌そうな顔を見せる優香。
優香「いや それは……」
先程までの雰囲気とはまるで別人のように明るい声で、翔真が言う。
翔真「おばさんのご飯 久々に食べたいです!」
優香が驚いたように翔真を見上げる。
翔真が「文句あんのか?」と言わんばかりに優香を見下ろす。
◯家、玄関
足取り重く家に入る優香。その後ろを翔真が嬉しそうに入る。
◯洗面所
優香が先に手を洗う。すぐ後ろで待機する翔真が鏡越しでジッと見つめる。
それが非常に気になる優香。
優香「ねぇ そんなに見られると緊張するんだけど……」
翔真「もっと緊張したらいい ずっと俺のこと考えて ドキドキしてたらいいんだ」
大真面目にそう答える翔真に対して、どう反抗したら良いのか困る優香。
◯キッチン
手を洗い終えた優香が翔真から逃げるように早足でキッチンに向かい、食器の準備や盛り付けの手伝いをする。
その後、翔真もキッチンにやってきてニコニコしながら佳代に声をかける。
翔真「俺も何かやりたい」
佳代「翔ちゃん 高校生になっても お手伝いしてくれるなんて 偉いわねぇ きっといい旦那さんになるわ」
翔真が照れ笑いする。
優香は全く笑えない。
◯ダイニング
テーブルに食事を並べ、佳代と向かい合うように優香と翔真が並んで座る。
「いただきます」をして、味噌汁を飲み始める優香。
佳代が単刀直入に二人に質問する。
佳代「で? 付き合い始めたの?」
ブッ! ゲホッゲホッ!
豪快にむせる優香。
佳代が嫌そうな顔でティッシュボックスを優香に差し出す。
佳代「やだぁ! レディなんだから もっと落ち着きなさいよ」
優香「お母さんが 変なこと言うからでしょ!」
苛立つ優香を横目に翔真が佳代に向かって自分の気持ちを打ち明け始める。
翔真「俺 優香が好きです 付き合いたい ……でも優香は相手にしてくれません」
悲しそうな顔を見せる翔真。
カチャン、カチャン……
優香が箸を落とす。
優香(好き? 付き合いたい? 昨日は無視したくせに…… 何言ってんの?)
固まる優香。
佳代「あらあら それは照れ隠しよ だってこの子 ずっと翔ちゃんのことが好きで 翔ちゃんのことしか考えてないもの ねぇ?」
優香に問いかける佳代。
優香が決意したような顔で翔真に言う。
優香「私の初恋は もう終わったから」
数秒遅れで翔真が真剣な顔で優香に言う。
翔真「俺の初恋は まだ終わってない」
全く違った想いを抱く二人が見つめ合う。


