【回想開始】
〇8年前、春、晴天、桜の花びらがヒラヒラ舞い落ちる並木道
日向優香(8)が幼馴染の小野寺翔真(8)と手を繋ぎ、笑いながら歩く。
優香「私 翔真と結婚する」
翔真「えっ……」
屈託ない笑顔を見せる優香の言葉に顔を赤らめる翔真。
優香「だって翔真は頭良いし カッコいいから」
優香「それに『翔ちゃんと結婚したら幸せになれる』ってお母さんが言ってたもん」
翔真「そっか……」
翔真(優香ちゃんは 本当に僕のこと好き? 僕は……)
翔真が暗い顔をする。
それに気がついた優香が不思議そうな顔で問う。
優香「翔真 どうしたの?」
翔真「僕 好きな子が居るんだ……」
優香が口に手を当てて驚いた顔をし、翔真にグイッと近づいて食い気味に問う。
優香「誰?」
目をキラキラさせる優香との距離が近くて、緊張する翔真。
恥ずかしさを隠すために優香から顔を逸らして言う。
翔真「頭悪いけど 可愛くて 明るくて 一緒に居ると元気になれる子」
突然、優香が立ち止まり、呆然とする。
優香(翔真の好きな子は 私じゃない……)
翔真「優香ちゃん 僕……」
真剣な顔で優香が見つめる翔真に、初めて優香が作り笑顔を見せる。
優香「好きな子と上手くいくと良いね…… 用事思い出したから帰る」
翔真の手を振り払い、泣きながら走って家に帰る優香。
優香(もし『僕の好きな子は優香ちゃんじゃない』 って言われたら もう立ち直れない……)
【回想終了】
優香ナレーション「翔真からの言葉が怖くて逃げた…… そのことを私はずっと 後悔している」
〇8年後の春、高校の教室
高校1年生となった優香が、窓側の椅子に腰掛け、頬杖をつきながら外を見つめる。
大きなため息をつく優香に一人の少女が声をかける。
彩音「こんな晴れた日に ピチピチの女子高生が ため息なんてついて どうした?」
手鏡を見ながら自身のつけまつ毛を気にする彩音が、優香に問う。
優香「ねぇ 好きな人ってさ どうしたら更新されると思う?」
彩音が手を止めて優香を見る。
彩音「今 何て言った?」
優香が先程より大きい声で答える。
優香「好きな人ってさ どうしたら更新される? って聞いたの」
彩音が大笑いする。
優香が首を傾げる。
彩音「優香はウブだなぁ 待ってたって更新されるわけないでしょ!」
優香「じゃあどうしたら……?」
困った顔をする優香に彩音がハッキリとした口調で言う。
彩音「男を忘れたきゃ 男! それも前より ハイスペックな男に限る」
優香が机に突っ伏す。
優香「それができないから言ってるんだよ…… 出会っても好きになれないし そもそもそんなハイスペックな男子居ないし」
彩音「そんなに例の幼馴染が好きなの?」
コクッと頷く優香。
彩音「バカだね…… あの時何で逃げちゃったの? もしかしたら告白されて……」
優香「今頃 彼女だったかもしれないよね……」
優香ナレーション「告白するチャンスは何度もあった でも振られるのが怖くて 私は 全てのチャンスを無駄にした」
〇学校帰り、8年前に翔真と歩いた桜の並木道
優香(私は救いようのないバカ あの時 翔真は何て……)
ドンッ!
足元ばかり見ていた優香が誰かにぶつかる。
優香「ごめんなさい 私 前見てなくて……」
優香が顔を上げ、目の前に居た人物を見て、目を見開く。
目の前に立っていたのは――
この辺に住んでいる人なら誰でも知っている
超エリート高校『英秀大学附属高校』の制服を着た 翔真だった。
偶然の再会に動揺してしまう優香。
優香「久しぶりだね 高校違うから なかなか会えなくなっちゃったし…… 元気?」
優香をサラッとかわして無言で立ち去る翔真。
優香(あれ? 無視された…… 『元気だよ』とか 何か一言あっても良くない?)
優香(私は あんな奴をずっと好きでいたの? そして これからも好きでいるの?)
そんなことを考えていたら、苛々し始める優香。
優香が走り出し、翔真の背中に思いっきり体当たりする。
勢いよく振り向き、驚いた顔をする翔真に、優香がしかめっ面で言う。
優香「もうあんたなんか 好きでいるのやめる! ずっと好きでいて 時間無駄にした」
優香「これからは一分一秒たりとも あんたのこと考えたりしないからね」
優香がクルリと向きを変えて立ち去る。
優香(言ってやったわ これですっきり前に進める! 新しい恋をしよう‼)
翔真「何だあいつ……」
あっけにとられる翔真の口元が緩む。
優香ナレーション「私の初恋は終わった そう思ったのに……」
タイトル挿入『その独占欲に、たじたじ』
〇翌日、優香が通う高校の教室
優香がニヤつく。
目の前に座る彩音が気味悪そうに優香を見る。
彩音「昨日は落ち込んでたのに 何なの? その気持ち悪い笑顔」
優香「失礼な! ふふふ…… 私はついに言ってやったんだ これで前に進める」
彩音「はい……?」
優香の言っている意味が理解できていない様子の彩音。
昨日あったことを説明する優香。
彩音「それで良かったのかな? また相手の意見聞かずに帰ってきちゃって 成長してないじゃん」
彩音の言葉が優香の胸にグサッと突き刺さる。
苦しそうに胸を押さえながら、彩音に問いかける。
優香「無視されて 怒った勢いで言っちゃったけど…… やっぱりまずかったかな?」
彩音「うーん…… でも もう一分一秒たりとも 彼のこと考えないんでしょ?」
優香(そうか もうあいつのこと 考えちゃダメなんだ……)
優香(何年間も毎日毎日 翔真だけを考えてたから 考えるのが当たり前で……)
優香(これからは何を考えたら良いの?)
魂が抜けたようにボケーッとする窓から晴れた青空を見上げる。
〇昼、教室
机をくっつけ、優香と彩音がランチを楽しむ。
優香が手作りお弁当を食べていると、ある人物が近づいてくる。
大祐「腹減ったぁ 日向 俺にも弁当分けて~」
テロップ「滝本大祐(15) 優香と同じ中学出身」
優香の隣にピッタリ近づいて座り、脚を組みながら口を開ける。
優香「あげるわけないでしょ⁉ つか何でここに居んの? 自分のクラス行ってよ」
大祐「冷たいな 中学の時はもっと優しかったのに…… 日向は変わったよな」
優香「いやいや! 変わったのは 滝本くんだよ! 何なの? その金髪 それにピアスまでして」
グスン、グスン……
優香が泣きまねをする。
大祐「よりカッコよくなったっしょ?」
満面の笑みを見せる大祐を冷たい目で見る優香。
優香「いや…… 中学の方が 好青年で好きだった」
何気ない優香の一言で、大祐が本気で落ち込む。
空気を読んだ彩音が大祐に声をかける。
彩音「ねぇ 今日 学校帰り暇ですか?」
大祐「うーん」
渋る大祐を見て彩音がニコッと笑う。
彩音「優香とカラオケ行くんですけど 一緒にどうですか?」
大祐「行く!」
大佑が目を輝かせ、即答する。
彩音(やっぱり……)
ニヤリとする彩音。
優香(滝本くん そんなにカラオケ好きだったんだ)
驚いたように微笑む優香。
〇放課後、正門近く
優香、大祐、彩音が横並びで正門に向かって歩く。
大祐が鼻歌を歌いながらスキップして二人より先に正門に到着する。
大祐がピタッと立ち止まり、一点を見つめる。
大祐「何で……?」


