翔真は、ズボンのポケットに手を突っ込み薄暗くなってきた道を歩いた。
母さんがあそこまでしつこく椿沙との付き合いを嫌がる理由って、何なんだろう。
確かに光哲さんがこの辺ではある意味有名だという事は、中学生くらいの頃から知っていた。
俺が物心つく頃から、椿沙には両親は居なくて、光哲さんと二人きりの家族だった。
その時点で過去に何かあったんだろうな、ということ馬鹿な俺でさえ分かる。
翔真はそんな事を考えながら、ノブさんのラーメン屋に向かっていた。
光哲さんと古くからの付き合いがあるノブさんなら、何か知ってるかもしれない。
そう思ったからだ。
ノブさんのラーメン屋のドアを開け、暖簾を潜ると「いらっしゃい!」とノブさんの威勢の良い声が聞こえる。
ノブさんは入って来たのが翔真だと気付くと、「おう、椿沙ちゃんの男じゃねーか。さっき来たばっかりなのに、忘れもんでもしたか?」と言った。
翔真はノブさんの目の前まで行くと、「あのぉ、、、聞きたい事があるんですけど。」と言った。
「何だよ、そんな険しい顔して聞きたいことって。」
「椿沙のことなんですけど。」
「椿沙ちゃんのこと?」
「椿沙って、光哲さんと二人家族ですよね?昔、、、椿沙に何があったんですか?ノブさんなら、光哲さんと古い付き合いだから知ってますよね?」
翔真がそう訊くと、ノブさんは黙り込み手を止めていた作業を再開した。
「それ、椿沙ちゃんには訊いたのか?」
「え、、、いや、訊いてないです、、、。」
「そのことは、俺じゃなくて、椿沙ちゃんに直接訊いた方がいいんじゃないか?」
「え、でも、、、」
翔真が戸惑っていると、ノブさんは優しい表情で「椿沙ちゃんの何を見てきた?お前こそ、椿沙ちゃんと付き合い長いんだろ?それなら、椿沙ちゃんが陰でコソコソ話されてるのを嫌がることくらい分かるだろ。」と言った。
ノブさんの言葉にハッとする翔真。
「そうですね、、、。椿沙に直接訊いてみます。ありがとうございます!」
そう言うと、翔真はノブさんのラーメン屋を出て、空を見上げた。
そうだよな、俺は椿沙の何を見てきたんだ。
よく考えれば分かることだったのに。
翔真はそう思いながら、少し冷たい風に身を縮めて自宅へと帰った。



