その日もノブさんは、「お代はいらねーよ!」とタダでラーメンを食べさせてくれた。
その帰り、夕暮れの空を見上げて「綺麗だね〜。」と穏やかな表情を浮かべる椿沙。
椿沙は、普段ほとんど笑うことがない。
幼稚園の頃から知っている翔真でさえ、椿沙の笑顔を見たことがなかった。
でも、笑わない分、椿沙の穏やかな表情を見ることが出来るのが翔真にとっては喜ばしいことだった。
いつか、椿沙を笑顔にしたい。
翔真はいつしか、そう思うようになっていた。
「じゃあ、また明日ね。」
「じゃあな。」
そう言って、椿沙の自宅前で別れた翔真は、その直後に「あ、また母さんに連絡するの忘れた。」と頭を抱えた。
「ただいまぁ、、、」
そっと帰宅した翔真は、リビングには行かず、そのまま2階の自分の部屋へ上がろうとした。
しかし、リビングから「翔真〜?帰って来たの〜?」と母親の声が聞こえてきた。
翔真は仕方なくリビングに顔を出すと、「ただいま。」と控えめに言った。
そんな息子の姿を見た翔真の母は、「その顔は、、、またラーメンご馳走になってきたのね。」と言い、ムッとした表情で翔真を睨み付けた。
「ごめん、また連絡し忘れてた!」
「もう!あまり椿沙ちゃんと付き合わないでって言ったでしょ?」
母の言葉に「え?そっち?」と拍子抜けする翔真。
「何だよ、別に俺が誰と仲良くしようと、俺の勝手だろ。」
「お母さんは翔真が心配で言ってるのよ?もし、翔真が危ない目に巻き込まれたら困るじゃない。」
「俺の心配じゃなくて、自分の心配じゃないの?面倒なことに巻き込まれたくないから。」
翔真はそう言うと、「ちょっと出てくるわ。」とスマホだけを持ち、「翔真!どこ行くの!」と言う母親の声を無視して、家の外へと出たのだった。



