歩くリラ冷えの風


「ノブさーん、お疲れ。」

そう言って、ラーメン屋の暖簾を潜る椿沙。

そのあとに続き、翔真も店内へと入る。

決して綺麗とは言えない昔ながらのラーメン屋だが、味と店主の人柄は確かだった。

「おう、椿沙ちゃん!今日も彼氏付きか!」

椿沙の祖父の古くからの仲間である、スキンヘッドの店主ノブさんはそう言う。

椿沙はカウンター席に座ると、「彼氏じゃないって言ってるでしょ。」と言いながら、胸元からチャッキーを出し、スクールバッグの中に移動させた。

「もう付き合っちゃえよ。お似合いだぞ?」
「わたしは一人でいいの。自分のことは自分で守れるしね。」

椿沙がそう言うと、ノブさんはガハハハと豪快に笑い、「そりゃ、確かだな!」と言った。

翔真は椿沙の隣の席に座ると、小さくなって椿沙とノブさんの会話を聞いていた。

「光哲さんは元気か?」
「うん、元気だよ。でも、もうさすがに空手は教えられないから、今は陶芸教室の先生やってる。」
「ほう、陶芸。光哲さんは多趣味だなぁ。」

そう、椿沙の祖父である光哲は元々は空手教室を営んでいて、その影響で椿沙もそれなりに空手の技が使えるのだ。

「ノブさん、わたし醤油ね。翔は、味噌でいいの?」
「お、おう。」

二人の注文を聞き、「はいよ!」と元気良く返事をするノブさん。

椿沙のスクールバッグの隙間からは、チャッキーが顔を出し、鼻をクンクンさせていた。