あの電話から数日が経った。
変わらず、私はまた毎日泣いてばかりだ。

彼が許すと言ってくれた。
素直に戻れればどんなに良いか。
でも、どんなに淋しくても、彼を忘れられなくても私にはそれをするのは罪だった。
絶対してはいけないと、すごく苦しいけど決めたから。
私といれば彼は辛い思いをしてしまうだろうから。

また誰もいない家のリビングでウジウジそんなことを考えていた。

そんな時、自宅の電話が鳴った。
何故か鳴った瞬間に彼だと思った。

うかがう様に電話を受ければ、不思議だけどやっぱり彼だった。

電話に出た声が私だと分かった彼は話し出す。
でも、前みたいに辛そうではなく、なにか吹っ切れたように。


「アカリごめん。俺、やっぱり忘れられそうにない。
なんか女々しくてほんとごめん。
オレ、ケータイ変えたんだ。アカリの気が向いたら連絡して?
番号言うから、書いて。」


一気にここまで彼は話すと、いい?と確認を取った。
紙もペンも目の前にある。
でも…と小さい声で言った私の言葉は届かなかったのか、彼が最初の番号を告げ始めた。
言われるがままに私はペンを取り、「090」と書きかけて手を止めた。

聞いてどうする。
これ以上、私は彼と接触してはいけない。
また嫌な気持ちを思い出させてしまうだけ。

書きかけたメモを1枚剥がし、捨てた。

再び「いい?」と私へ確認をとる彼に「…うん。」と返事をし、彼の声をわざと聞き逃した。
覚えないように受話器を耳からずらした。
番号を言い終えるのを見計らいながら受話器をまた耳へ。

私の小さな咳払いを聞いた彼は、「待ってるから。」と言った。
私は叶うこともないのに「うん。」と返事をした。


「オレ、ずっと好きでいるから。」


最後に彼が残した言葉。

胸が張り裂けそう。