震える声を絞りだし、私は小さな声でたずねた。


「…ケイスケ…?」

「…アカリ。」


やっぱりそうだ。


「帰ってきて。オレのとこに…。」


突然、どうしてこんなに辛そうにこんなことを…?
彼はもう私なんか忘れてると思っていたのに。
まさか、一方的に別れると決め、最後は止める声を無視して電話を切った私をまだ想っていてくれたというのだろうか。

言葉が出なかった。


「オレ、アカリがいないと…!
お願いだから…。」


きっと嬉しかった。
けど、嬉しいなんて思っていいのか複雑な思いがある。
久しぶりに聞いた彼の声。
私を求めてくれている言葉。
胸が熱い。
すごくドキドキして勝手に涙が一気に流れる。

でも、やり直しても前みたいになんの疑いもない幸せな二人にはきっとなれない。

ダメだ。

裏切った私は100%の信頼を得るのは無理だろう。
ケイスケの不安がる顔は見てられない。

私は、喉につまる言葉を無理矢理おしだす。


「戻れない。ごめん。」


戻れたらどんなにいいか。
言葉とは正反対の気持ちを必死にこらえながら。
「もう一緒にいれない」
「ケイスケはきっと私といれば何かあった時に思いだす。絶対に辛くなる」
私が言ったのはこんなことばかり。

彼は大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「わかった。
アカリのこと、もう忘れるから。」


彼がそう言うと、電話は切れた。

嬉しかった。
私を想ってくれてたこと。

嬉しかったけど、私はいずれ彼の記憶から消えるんだと思うとすごく淋しかった。

プープープーと無機質な電子音が頭にこだまする。