昔からの美容師になりたいなんて夢は完全に見失っていた。
何かを始める気にもならず。
ソファでダラダラ過ごし、ウトウトしかけた頃。お昼くらいだっただろうか。
静かなリビングに、プルルと突如鳴り響く固定電話の呼び出し音。
面倒くさいと思いながらも、鳴り続ける音に負け渋々起き上がり自宅の電話をとった。
「はい。」
「………。」
電話の相手は、そっちがかけてきたと言うのに何も言わない。
「もしもし?どちら様ですか?」
相手は黙ったまま、プツッと電話は切れた。
無言電話なんかにわざわざ出たことを後悔しながらソファへ戻った。
だけど、ほんの数十秒でまた電話が鳴った。
きっとまた同じイタ電だろう。
そう思いながらも、私はなぜか再び受話器を取った。
「…はぁい、もしもしー。」
やはり無言かと思ったその時、
「……ッ」
「はい?」
「…メン…。ゴメン…。」
微かに聞こえた、たったこれだけの言葉に胸が激しく動き出した。
体が震えた。
彼だ。
