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ケンジさんと出会ってから、あと数ヶ月で2年になりそうなある日。


「俺、もう独立するぞ。」


ポケットに手を突っ込んで、タバコ片手に「おはよう」「こんにちは」くらい普通の事のように言った。

ケンジさんがそのうち自分で店を出すと言っていたのは知っていたけど、いよいよそれが現実になるようだ。
ケンジさんは、準備が整ったらこの店を辞めてしまうらしい。
このサロンには大損失だろう。

ケンジさんに連れて来られ、なかばケンジさんのわがままで働くようになった私。
ケンジさんが辞めたら、私はここに居ていいんだろうか。
なんて、失業するかもしれないのに、特にたいした危機迫る感もなく、ぼんやり考えていた。
また本屋さんに戻らせてもらえないかなーなんて。


「はぁ。そうですか。」


と、呑気な返事をした。


「おい、アカリ。
なんかボヤッとしてっけど、お前俺の店で働くんだぞ。」

「へ?」


他人事のように考えていた私に突然ケンジさんはそう告げた。


「何故に…?」


ケンジさんは、やっぱ分かってなかったのかとため息をついてから、理解しにくい理由を述べる。


「そんなの当たり前だろ。お前を連れてきたのは俺だろ。
だからだ。」

「いや、でも、そんな…。いきなりすぎですよ。」

「心配すんな!大丈夫だ。」


そして、ガハハハと笑う。
なんでか、この人は親分肌だか兄貴肌っていうか、不思議と不安はない。
まぁ、拒否する理由もない。
ただ、勝手だなぁーって。それだけだ。


「はぁ。わかりました。
またよろしくお願いします。」

「おう!もう土地は決めてあるからな。
あとは建つのを待って、それまで手続きやらなんやらの日々だな!」

「はぁ?!建てる?!」

「まあ、何気に準備も進めてたし、次の冬までにはオープンだな。」

「冬までにって、間に合うんですか?」


季節はようやく暖かくなり始めたばかりなのに。
何を言ってるんだろう、この人は。


「それがよ、俺の弟の仕事の関係でいい具合に話が進んでよ!
しかも、ここだけの話「まけて」くれそうなんだよなー。
ラッキ~。」


にしても、この人そんなに貯金とかあったんだろうか?
この歳で銀行のローン組めるの?
まぁ、余計なお世話だけど。

そういえば、弟さんはまだ駆け出しだけどインテリアデザイナーだっけ。

なんだか、最近コソコソしてたのはこの話のためか。