開店して少しすると、ケイスケ以外にもいた朝一の予約のお客さんが来店した。
マコトがそのお客様の担当をし、アツシはケイスケと話しながらシャンプーに入った。

ケンジさんご指名のお客さんはあと1時間後に予約が入っている。
それまでには顔の赤みがひいてると良いけれど。


少しして、ケイスケのシャンプーを終えたアツシが私のところに来た。


「ケンジさんにカット見てもらいたんですけど。」

「そっかそっか。今どうかな。ちょっと見てくるね。」


ついでに、氷代えてこよう。


「忙しそうだったら後でもいいんで、お願いします!」


ニカッと笑う鈍感なアツシ。
アツシはケンジさんが奥で事務的な仕事をしているとでも思っているようだった。

鏡越しにケイスケと目があった。
ケイスケもケンジさんが気になるのか、二人でちょっと顔を歪ませ笑った。

ノックをし「入りますね」と声をかけて部屋に入ると、ケンジさんはちゃんと氷を当てていた。

新しい氷を用意する私の後ろから声をかけられた。


「なぁ。」

「はい?」

「今日、オレ何時に入ってたっけ?」

「ケンジさんご指名のお客様はあと一時間ほどでみえますよ。」

「そっか。サンキュー。」

「アツシが、ケイスケのカットをケンジさんに見てもらいたいって言ってましたよ。どうしますか?」

「おぉ、そっか。
…もう少ししたら行くつっといて。」

「わかりました。言っておきますね。」


新しい氷を渡して、フロアへ戻ろうとドアへ向かう。


「アカリ。」


ドアのぶに手をかけたまま振り向くと、真面目な表情で真っ直ぐ私を見るケンジさんと目があった。


「はい。」


そのまま少し沈黙するケンジさん。
何か言いたい事があるのかもしれない。
けど、表情からは読み取れず、言葉の続きを待つしかなかった。


「…頼むな。」


フッと優しい表情にかわった。


「はい。」


気になったけど、私もその表情につられ笑って返事をして部屋を出た。