フロアの全体を眺め、準備が完了したかを確認し、OPENのプレートを玄関へ下げに出た。
目の前の駐車場で今朝見た光景を思い出す。
いざ開店し、フロアで何かしらの作業をしながらも頭のどこかではぼんやりと今朝のことを考えていた。

ケンジさんと彼女さんの間に何があったのかなんて全く想像出来ない。
だけど、そう言えばしばらく一緒に居るのを見ていない気がしてきた。
少し前ならサロンにもいつものダイニングバーにも時々顔を見せていたのに。
今朝会ったのは久しぶりだと気づく。

いつぶりだろうかと記憶を辿る。
きっと、最後に会ってからもう2~3ヶ月は経っているかもしれない。
まだ暑い日だった気がする。

夏物の大人っぽいワンピースが凄く綺麗で、「似合ってますね」と言うと、「一目惚れして買っちゃったの」と嬉しそうな笑顔で答えたのを思い出した。
この時が最後。たぶん。

もし、ケンジさんの最初の傷も彼女によるものなら、もう2ヶ月も二人に何かが起きているのかもしれない。
もう、11月だから最低でもやっぱり2ヶ月以上は経っている。
そうだ。ケンジさんが最初に傷を作ったの2ヶ月くらい前はケイスケと再会した日だった。

ケンジさんの彼女に初めて会ったのはいつだっただろう。
あれは…確か3年くらい前だ。
ケンジさんがひとつ年下の彼女を、いつものダイニングバーに連れてきてみんなに紹介した。
ちょっとワガママなタイプだけど、ずごく綺麗で可愛らしさもある人という印象を持った。
そして、彼女のワガママを優しい苦笑いで全てを受け止めるケンジさん。
年月が過ぎ、みんな二人は結婚すると思っていたと思う。
そんな二人だったのに、どうしちゃったのだろう。

ケンジさんはみんなの悩みや相談はなんでも聞いてくれて、困っている人を放っておけない人。
なのに自分の辛いことは私達には言わない。

リョウタロウさんはケンジさんと同い年で付き合いも長いから色々な話をするみたいだけど、それでもあまり泣き言とか悩んでることは言わないみたいだ。

ケンジさんてば、周りの人の事ばかりお世話して。
私を仕事に誘ってくれた理由だって。

いつも助けてもらっているのに、私なんかには何も出来ない。