ケイスケの大きな手が私の手をすっぽりと隠した。
突然の出来事に、思わず手を引っ込めた。
すっごく恥ずかしくて、顔が熱くなるのが分かった。


「あっ、…ご、ごめん!もう大丈夫…!」

「アカリ、顔赤いけど?」


からかうようにケイスケに指摘され、余計に恥ずかしくなってしまった。

そして、余計なことを思い出してしまった。
ケイスケと再会した日の夜の事だ。


―― オレ、今でもアカリが好きだよ。


この言葉を。

あれからそんな雰囲気になる事が無かったし、そもそも二人きりにすらならなかった。
ほとんど、それに関しては意識してはいなかった。


「おおおお触り禁止!」


意識してしまった事を誤魔化すように、あの時のケンジさんのセリフを言った。


「ヤバっ!怒られちゃうな!」


そんな事をいいながらケラケラ笑うケイスケ。
ケイスケはふざけただけなのかも知れないけど、妙に意識してしまった。
なんでこんな事したのって理由を求めるようなことが浮かんでしまったけど、勝手に勘ぐってるみたいで聞けない。

それを誤魔化したくて、わざとふざけるようにむくれた顔をしてみれば、ケイスケもごめんと笑いながらいった。

そんなやり取りをしていると、注文したものが来る頃には体はすっかり暖まっていた。
その後はもうそんな事はなく、いつも通りの雰囲気でいつも通りのケイスケだったから、からかわれたと自分の中で処理ができた。

食事を済ませ時間を見るといつもの出勤時間まであと15分。
ここから10分くらい歩くとサロンがある。


「あ!もうこんな時間だ。そろそろ行かなきゃかも!」


慌てて席を立った私につられ、ケイスケも席を立った。
伝票をさり気なく持って、スタスタと会計に向かうケイスケ。
私はお財布をバッグから出しながら追いかけ、ケイスケの横に並んだ。


「会計一緒で。」


レジのスタッフにケイスケがそう告げた。


「そんないいよ!」

「おだまり。」


冗談めかしてケイスケは言った。


「あ、ありがとう。」


これ以上のやり取りは恥をかかせてしまいそうで、素直にご馳走になることにした。
たぶんケイスケは、私が気をつかわないように冗談めかして言ってくれたんだと思う。
さり気ないケイスケの気づかい「大人」を感じた。

少しだけ下がってケイスケの横顔を見上げてみると、やっぱり相変わらずキレイな顔をしている。
顔つきも大人っぽくなったケイスケに少し緊張した。
すっかり、大人の男の人だ。