ようやく落ち着き、グラスに手をかけながらみんなの顔を見ていた。
和かにケイスケと会話をはじめてくれるみんなを眺めていると、気まずさは薄れていった。

それから、なんとなしに隣のケンジさんに目をむけた。


「あれ?ケンジさん。
絆創膏なんてどうしたんですか?」


さっきまではゴタゴタで気が付かなかったけど、ケンジさんの左の耳に近い頬に大きくはないが絆創膏が貼ってあることに気がついた。


「あ~、何でもねぇよ。」


ケンジさんは少し隠すように頬杖をついた。
何か怪我をしたんだろうけど、ヒゲを整えてる時にでも切れたんだろうか。
でも、なんだか違和感がある。


「お前まさか喧嘩でもしてきたのかよ。いくつだよ~。」


なんて、リョウタロウさんが笑う。


「違うわ!」


ケンジさんはちょっとだけ気まずそうにグラスを掴み一気に飲み干した。
そして、小さくため息をついたのを私は見逃さなかった。

少し気になったけど、みんなも盛り上がってるから何も言わずにいた。

その時、興奮ぎみにアツシがケンジさんを呼んだ。


「ケンジさん!ケンジさん!!
ケイスケくん、俺に髪任せてくれるって!!」


そうだ!
ケイスケと店に戻るまでの会話を思い出した。


「あっ!そうそう!
ケイスケ、アツシのスタイリング気に入ってくれたんです!」


「もしよければ、オレまた店行ってもいいですか?
もちろん、あくまでもアツシの客として。」


ちょっと驚いた顔のケンジさん。
でも、すぐにいつもの豪快な笑顔を見せた。


「そうか!良かったな!アツシ!!
また来てやってくれな、ケイスケ!」


これが、アツシの初めての指名となった。
ケンジさんは本当に嬉しそうに笑っていた。


「よし!アツシの初指名に乾杯だな!」


ケンジさんがグラスを上げると、みんなもそれにならった。
グラスが合わさる細く綺麗な音が響いた。