ケイスケが私を呼び止めたのを見て、当然ケンジさんは疑問を持つ。


「知り合い?」


キョロキョロとみんなの顔を見ながら、わけのわからない様子のケンジさん。
ケンジさんにしてみれば、見た事もないただそこに居た客が急に私を名前を呼んでいるんだから不思議なのは当然。

マコトがハァと小さくため息をついて当たり障りなく答える。


「今日、アツシが世話になったカットモデルさんです。」

「あっ!そうなの!?
これは失礼!アツシが世話になりました。
俺、そこのオーナーの桐谷です。
髪、いい感じだね!アツシ頑張ったな!ハッハッハッ!」

「いえ、こちらこそ……。」


ケンジさんの迫力に圧倒されているケイスケは、言葉が出ない様子だ。


「で?
アカリの知り合い?」


再びケンジさんがそういうと、マコトが深いため息をついた。

変な空気がこの辺にだけ漂っている。
私は何も言えず、ただ下を向いた。


「なぁ、もしかしてアカリって…あのアカリ?」


ただ見ていただけだったケイスケの隣の席の人が言った。
ケイスケの友達だろう。


「あ、あぁ…。」


ちょっと気まずそうにケイスケが返事をすると、「ふ~ん」と苛立った表情で私の前にその人は立った。


「どの面下げてコイツの前に出てきてるわけ?」

「タツヤ!やめろって!」


突如、私へ向けられた牙。
私を睨み、押し迫る。


「両脇に男はべらせてなんだよ。コイツがどんな思いしてたかも知らねーで。」

「なんだ、テメェ…。
下品な言い方すんじゃねぇよ。」


タツヤの言葉にマコトが静かに怒り掴み掛かろうとする。


「マコト!」


とっさに呼び止めたけど、マコトはタツヤの胸ぐらを掴みタツヤを睨む。
タツヤもマコトを睨み、怒りの表情を強めた。


「お前こいつが何したか知ってんの?この浮気女が。」


容赦なくタツヤの言葉は私を攻撃した。
でも、仕方ない。
本当のことだから、私はなにも言えない。

次の瞬間、マコトがタツヤに拳を振り上げた。


「やめろ、マコト!」


それまで黙って見てたケンジさんがマコトを止めた。


「だけど、コイツ!
アカリだって…!!」


マコトは納得いかない様子でケンジさんと私を交互に見る。


「いいんだよ、マコト。本当の事だから。」


大丈夫だよ、と私は言った。