後悔

今日はケンジさんがお休みだが、他のスタッフみんなはいつも通りに仕事をこなす。
お客さんとの会話、ドライヤーの音。
クーラーの効いた店内は快適だ。

私はカウンターで予約の電話を受けていた。


｢では、明日17時30分にお待ちしてます！
失礼します。｣


電話を切った私のところに、お客さんを見送ったヤヨイさんが駆け寄ってきた。
一刻も早く何かを伝えたかったのか、そわそわしているのが分かる。
そして、小声ながらもそうとう興奮している様子で声をかけられた。


｢アカリ！アツシ帰って来た！
超絶イケメン連れて！！
遠くからでも分かるもん！！｣


イケメン大好きのそんなヤヨイさんに、「はいはい、次のお客様待ってますよ。｣と、笑いながら促した。
じっくり見たかったとヤヨイさんは不満気をこぼして、瞬間に表示のを整え次のお客様に声をかけた。

それからすぐに、ドアが開いた。
汗をかきながらアツシが帰ってきたのだ。

お客様をイスに促しながらヤヨイさんの目がドアを凝視している。


｢戻りました！どうぞ！｣


お客さんを店内に促す声に、スタッフ全員が｢こんにちは｣と声をかける。
私も荷物を預かるために、いつも通り笑顔でお客さんの元へ向かった。


「こんにちは！｣


そして、背の高いお客さんの顔を見上げながらいつも通りのセリフ。


「お預かりするお荷物はありっ…｣


その瞬間、言葉を失った。
いつも通りのセリフが出てこない。

……嘘だ。
こんなこと…ありえない。

色んな事が頭をよぎる。
信じられない。

数秒沈黙し、ハッと我にかえり慌ててもう一度言葉をかけた。
落ちついて、ゆっくりと。


「…お預かりするお荷物はありますか？｣


顔は見れなかった。

アツシが私達を不思議そうに見る。
だって、このお客さんも私を見て驚いている。


「あ…ない…です。｣


驚いた表情でそう答えたお客さん。


「では、アツシお願いします。｣

「はい！こちらにどうぞ！」

「あ、はい。」


身体が震えるのを堪え、2人がイスは向かうのを見届ける。
私は慌てて裏の休憩室へ入った。

ずっと頭の中ではなんで？どうして？ばかりを何度も繰り返している。
アツシが連れて来たのは、ケイスケだ。

どうして？
なんでこの町に…？

私の心臓は胸を突き破るんじゃないかと心配になるほど強く早く動いていた。