「もう散々苦しんだろ。充分だ。
俺はお前の事を6年見てきた。
大丈夫。お前ならやり直せるよ。」


ずっと見守り続けてくれたオーナーの優しい言葉に、胸が熱くなる。


「一緒に頑張ろうな。これからも。」

「ありがとう…ございます…!」


オーナーの言葉であんなに重く苦しかった胸が軽くなった。
驚くほどに。

この人には感謝してもしきれない。
感動してぐちゃぐちゃの顔で声をあげて泣く私。
私の顔を見て「びでー顔だな!」と失礼なほど笑いながら頭を撫でてくれるオーナー。


「ア、アカリさん…!」

「ちょっ!待てって…!」


突然、後ろから私を呼ぶ声と、それを止めようとする声。
振り向くとそこには見慣れた顔があった。


「アカリ、悪い…!
偶然、聞こえちゃってさ…。」


そうバツが悪そうにそう言ったのは、同じ店で働くスタイリストのマコト。
私とは同級生だ。


「オレ、オレ、アカリさんがそんな辛い思いしてたなんて気づかなくて…!
いつもオレの話し聞いてもらってばかりで…すいませんでした…!」


プルプルと拳を握り、今にも泣くんじゃないかと思う程に顔を歪ませた彼は一番若手のアツシ。

その後ろには更に二人がいる。
私の2歳上のスタイリストのヤヨイさんは目を潤ませ
、「アカリ、私の胸に!ほら!」と両手を広げている。
そして、リョウタロウさんがいる。オーナーと同期のベテラン人気スタイリストだ。
「アカリ、俺が慰めてやろうか?」と言うが、全力で遠慮をしたいと言葉にはならなかったけど咄嗟に思う。

なに…?なにこの状況。
驚き過ぎてなんの言葉もアクションも出ない。
口をあんぐりさせたまま、立ち尽くしていた。
ただ、頭の中では何十回とどうして?なんで?と繰り返しとても動揺している。

オーナーは、「みんなに言う手間はぶけたな!」とか言ってゲラゲラ笑っている。

話さなければとは思っていた。
でも、こんな風に知られるって良かったのかどうなのか。
手間がはぶけた…のだろうか…?
あ…そうだ。ここは仕事が終わってからみんなでいつも来ている店だ。
みんなが来ても何にも不思議じゃない。
よく考えてみれば、急にこんな風に話を聞かされたみんなの方が気まずいし驚いているはずだ。


「…ご…ごめん」


とても小さい私の声だったけど、みんなに届いたようだった。
私を見るみんなの表情は様々だ。
眉を下げて微笑んでくれていたり、何でもないことのようにいつも通りの呑気な無表情だったり。
刺々しい空気は何も感じない。
こんな私でも今までと変わらず受け入れてくれているのがわかる。
みんなの優しさに答えなければ。