「もし、ケイスケと別れずに一緒に二人で乗り越える努力をしていたら、どうなってただろうなぁ。」


少し上向きに煙草の煙をはきながらチラッと私を見てオーナーがぽつりとそう言った。


「一緒に乗り越える努力……?」


そんな事、絶対無理だった。
乗り越えられるかも分からないのに…そんなの辛いだけでしょ…?
そんなの一緒にいる意味あるの?

私の表情からそんな心の声をオーナーは察知したのか、こういった。


「お前さ~、100%の信頼を得られないとか、何かあるたびに思い出して疑うだろうとかじゃなくて、その前にケイスケにお前の気持ちを信じて欲しいとは思わなかったのか?」


いつの間にか真剣な表情で私の目を見て諭すように話すオーナー。


「思わなかった…。
絶対にもう、戻れないって思ってたから…」

「最初から諦めたりしないで、ケイスケのそばでお前の気持ちを伝えるべきだったんじゃないか?
その事でケイスケが不安になってお前に色々言っても、それはお前がちゃんと受け止めるべきだったと俺は思うけどな。」


その通りだ。
私は、それから逃げたんだ。


「…思い出したり、心配したりするのは辛いだけだから、私がいなくなればそんな思いはしなくてすむって思ってた…。」

「辛くないわけないだろ。
結局今だってお前辛いんだから、だったら頑張ってみれば良かったんだよ。
辛くても二人で話し合っていかなきゃ解決なんてしないだろ。
そうやって、ケイスケの気持ちを受け止めたり、お前が気持ちを伝えていく事で安心したり信頼したり出来るようになるんじゃねぇか?」


一言一言、諭すようにゆっくりと私の脳へ語りかける。


「そうしたら、いつの間にかひらいたお前らの距離は縮まって前よりも幸せになってたかもしれないよな。
逆に修復は不可能だってなれば、別れてただろうけどな。
それでもお前が勝手に逃げたりするよりよかった気がするけどな。お互いに。」


何もしないで最初から無理だって決めつけてた。
結局半端なまま私はケイスケから逃げた。

だから今でも引きずり続けていたのかもしれない。