そうだ…思い出した。

私は、少しずつ思い出しながら言葉を繋いだ。


「…彼は、すごくモテたんです。
顔も芸能人みたいに格好よくて、私と付き合ってることが奇跡みたいな人で。
彼のバイト先まで、5枚も6枚も書いたラブレターを持ってきた娘もいたりして…。
その手紙の内容まで聞かされちゃって。」


色々な事を我慢していた。
でも、私とは反対に彼はとても自由で、私がすれば絶対に怒るようなことも彼はしていた。

タバコの煙をはき、黙っているオーナー。
聞いてるのか聞いてないのか分からないオーナーに向けてと言うより、自分を振り返りながら確認するように。


「私…彼を他の娘に奪われるのが怖かったんです。
だから、嫌なことも強がって我慢してました。
すぐ、別れるって言われちゃうから。」


なんて情けないんだろう。
そこまで話すと私の言葉に被るようにオーナーが反応した。


「はぁ~~?!お前、バカだな~!マジで!」

「そんな思いっきり言わなくても…。」

「だってバカだろ!なに上手いこと転がされてんだよ!
お前が逆に転がしてやるくらいの気持ちなかったわけ?
出来ただろ、お前にだって。」


私は上手く転がされて…?
確かに…第三者として冷静にみたらそうかもしれない。
今まで気がつかなかった。

あぁ…そっか。
ちゃんと愛されていたのかもわからなくなってきた。
私の「好き」も本当だったの?
取られたくないって執着していた。好きだって思い込んでただけ?
もう、全部わけわかんない。

落胆の表情の私をよそに、オーナーはギャハハハと笑った。


「まさか、今まで気づかなかったのかよ?」

「そんなに笑わなくたって…。」

「悪い悪い。あ~おもしれぇ。
でもよ、考え方によってはお前が他の男に目を向けないようにって、ケイスケの作戦だったのかもな!
ケイスケもお前を誰にも取られたくなかったんじゃねぇの?」


ヤキモチやきだった。ケイスケ。
だけど、今となっては確認しようがない。
でも、そんな彼が私の浮気を許すと言ってくれたのは、私をちゃんと好きでいてくれたからだと信じたい。