全身に力が入り、声が詰まる。

どう話せばいいのか話し始めたにも関わらず、本当にこんな話をしていいのか土壇場になり迷ってしまう。

だけど、私は覚悟を決めたんだ。
ここから始めなければ。
怖気づいた気持ちを強引に奮い立たせる。


「…実は、昨日彼氏と別れたんです。」

「昨日って、また唐突だな。うまくいってなかったのか?」

「いえ、そうじゃないんです…。」


別れた理由が昔の彼氏への想いからであることを言うと、不思議そうな顔をするオーナー。
ケイスケのことなんて何も知らないんだから当然だ。
誰にも言わずに隠してたんだ。話したことないんだから。

私は少し震える膝を抑えながら、ケイスケとの出会いから7年前の別れ、その理由も全て隠さずに話をした。
私の気持ちや、いい加減な行動も。
今も続くケイスケにたいする気持ちと過ちを悔いている事も。

どのくらい時間が経ったのか、全てを話したころには料理から出ていた湯気は消えていた。

みんなとうまくやっているように見せかけて、実は距離をもっていた。
優しさや気持ちを踏みにじっていた事を謝ると、いつの間にか私はボロボロと泣いていたことに気がついた。

言葉にする事は、想像以上に苦しくて難しい。
ちゃんと伝わったかわからない。
きっと私の話は下手だった。

オーナーはどう思っただろう。
こんな話しされたところで迷惑かもしれない。
こんな最低な私はお店をクビになるかもしれない。
そもそも、こんな私が客商売なんてしてはダメかもしれない。

オーナーの沈黙が怖い。
下に向けた顔を上げるのが怖い。

カタンとグラスを置く音がした。


「最初に言っとくけど、お前店やめんなよ。」


ビックリした。
いきなりの言葉に顔を上げるとオーナーは私を見ていた。
オーナーは私からグラスに目を向けボトルのお酒を注ぐ。


「お前さ、ずっと一人でなにやってんだよ。
まぁ、言えなかった気持ちも分かるけどな。」


何も言えないでいる私をよそに、オーナーが話しだす。