「友香っ!!」
まるで感電でもしたかのように、頭を動かすより早く足がビルに向かった。
なんであんな場所にいるのか、あそこで何をするつもりなのかなんて考えなくてもわかる。
雨が体を叩きつけ、踏み切る足は水溜りに囚われそうになる。
大きな水飛沫をあげながら車が横を通り過ぎる。
「人が…屋上にいるんです! 受け止めるものを………」
息が切れて言葉が続かない。
でも、喘ぐ呼吸を整える暇があるなら友香の元に行きたい。
「友香――!!」
懸命にあげる声は雨音と人々の騒音に掻き消され、誰にも届かなかった。
一番届いてほしい人は今なにをしているのか。
周囲の建物に隠れて見ることができない。
傘を差す人々の間を縫うようにして走る。
後ろから来た人にぶつかられ、バランスを崩して地面に倒れた。
水溜まりに強く打ち付けた胸に、強烈な痛みが走る。
息を吸いたいのに降り頻る雨はそれすらも許してくれない。
痛みの合間に上体を起こす。
アスファルトに擦りむいた膝の血を、雨が洗い流していく。



