友香のスマホに電話をかける。





『おかけになった電話は電波が届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません』





無垢な機械音が告げる。





もう何度聞いたか分からないその声は容赦なく俺を突き離した。





そして思い出す。





友香は今スマホを持っていないことを。





必要ないと言い張る友香に、無理矢理でも買わせればよかったと今さら後悔した。





もちろん、雪乃ちゃんと友香が一緒にいる保証はない。





たまたま友香が病院を出たときを誰も見ていなくて、今はどこかで買い物でもしているのかもしれない。





それなら尚更、雪乃ちゃんについて何か知っているであろう友香と連絡が取りたい。





目の前を黒猫が、冷ややかな意地の悪い笑みを浮かべながら一声鳴いて通り過ぎて行った。





汗で張り付いた前髪が邪魔で掻き上げる。





顕になった額に冷たいものが落ちてきた。





顔を上げると、まるで焦る俺を嘲笑うかのように空から雨粒がぱらぱらと降ってきた。





瞬く間に雨足は強くなり視界が悪くなって探すどころじゃない。





側の建物の軒下に入る。





少し息を整えたい。





いつになったら止むんだろう。





せめてもう少し勢いが弱くなれば。






そう思いながら見上げた先の光景に、俺は目を疑った。