「玲央ー。友香知らない? もうすぐ8時になるのにまだ帰ってきてないのよ」
夕飯に作ったハンバーグを食べていると、自室で仕事をしていた母さんがスマホ片手に聞いてきた。
「雪乃ちゃんのとこじゃないの?」
「でもあの病院の面会時間は7時までのはずよ。いつもならそろそろ帰ってきてるのに。連絡もないのよ」
「なんか知ってるかもしれないし、風太に連絡してみる」
風太は俺の友達。
そして俺の妹の友達、雪乃ちゃんの兄でもある。
事故に遭っていたらどうしようと心配するお母さんを宥めながらスマホの電源を入れる。
メッセージアプリを開こうとアイコンに指を添えたところでタイミングよく電話が掛かって来た。
画面には風太と表示されている。
風太が電話してくることは滅多にない。
嫌な予感を断ち切るように電話に出る。
「もしもし」
「玲央? 雪乃どこいるか知らねぇ?」
「なんで? 病院いないの?」
「さっき病院から電話掛かってきてさ。雪乃がいねぇんだって。ベッドが空で面会に来てたはずの友香ちゃんもいない。でも受付の人は友香ちゃんが帰るところは見てねぇらしーんだよ。友香ちゃん家いる?」
「ちょうどさっき母さんと、友香がまだ帰って来ないって話してたとこ」
「そっか。とりあえずこれから病院行くけどお前も行くか?」
「俺も行く」
電話を切り、傍にあった上着を羽織る。
「誰から? どこ行くの?」
「風太。雪乃ちゃんの病院行って来る」
母さんは心配性だから2人がいなくなったことはまだ言わないほうがいいだろう。
きっとこっそり病院から抜け出して外に出たいとか、入院前に行った思い出の場所にもう一回行きたいとか、そういうよくあるやつだ。
逸る心を抑えて病院へ走る。
風太の家は病院へ行く途中にあるから、そこで合流すればいいだろう。



