もういまから随分前に『健斗が誰からもバレンタイン貰えなかったら可哀想だから』と私が勝手に理由付けして市販のチョコと一緒に渡した、ブルーのハンカチだ。

ハンカチには私が三日徹夜した雪だるまの刺繍がついている。

「……下手くそなのに……まだ使ってんじゃん……」

あの頃は上手くできたと思っていたが、輪郭があやふやな歪な雪だるまがにっこり笑っている。

家族と恋の境界線がわからなくなってから、ただ健斗の笑った顔が見たくて一生懸命だった。

すぐに溶けて消えてしまう雪のように、叶うことがない恋心を大事に抱えて佇む雪だるまは、まるで私みたいだ。

それでもこの恋を私はこれからもずっと手放せないんだろう。

いつか新しい恋を見つけても、その度にこの恋を振り返る。この恋を忘れられない。


雪のように儚く、触れたら消えるこの初恋を。






2025.1.17 遊野煌


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