「……ごめ、ほんと飲み過ぎだよね」

「まぁ、そんな《《姉貴》》も好きだけどね」

ほんと狡いなぁ。好きっていうなら、そこは彩だろ、なんて思いながらも健斗の優しさに胸が痛くなる。

──好きだよ。健斗が誰よりも。

今なら言えるかな。でも言えば雪のように溶けてしまう。何もかもがなくなってしまう。

雪のような恋は溶けて涙に変わってしまう。

だから好きだけど、きっと誰よりも健斗がキライ。

だってこれからも一生、私の中からいなくなったりしないから。 

私にこれからも姉という枷を負わせ続けるから。 

「なんかごめん。彩寝たいのに話すぎた、ゆっくり休んで」

「うん……」


私が健斗の言う通りにベッドに潜り込み、布団を肩までかぶるのを見ながら健斗がベッドから立ち上がる。

そして部屋の扉の前で健斗が私の方に振り返った。

「最後に……一個言い忘れたけどさ。来世はもう彩が姉貴じゃなくてもいいわ」

「どういう意味?」

「……そのまんまの意味」

「どうせ酔って手のかかる姉ですよ」

「そーゆうこと」

健斗がケラケラ笑うと背を向けて部屋をあとにした。

そして静寂が訪れたひとりきりの部屋の中に、カーテンの隙間から夜明けの光が一筋入ってくる。

「あ……」

私は手に握りしめたままのハンカチをみて小さく声を上げた。