「ま。彩にとっては暇つぶしだったのかもだけどな」

「……まあね」

いま思えば、初めて会った時から健斗のもつ内面的な何かに惹かれていたのかもしれないし、その綺麗な顔に一目惚れしていたのかもしれない。
またはただ単に世話焼きな性分の私に弟ができたことが嬉しかっただけだったのかもしれない。

今となってはどこからどうとか曖昧でわからなくて、ただわかるのは私が健斗が好きな気持ちだけ。

ただ好き。
どうしようもなく。
理由もなく。

心がただ求めてしまう。
その心を望んでしまう。 

一人きりの夜には決まって恋しいと泣いて駄々をこねたくなる。


「彩には……幸せになって欲しいって心から願ってる」

「…………」

それは無理な話でしょ。

だって私は当分この10年分の想いを抱えたまま、これからも健斗の姉貴として振る舞っていかなきゃいけないから。でも──。

「……ありがとう」

私はようやく言葉にできた5文字に、なんだかほっとして、目の奥が熱くなる。

「はい、これ使って」

「え?」

私はいつのまにか自身の頬に伝っていた涙に気づく。