「この10年……彩がいたから救われた部分大きかったなって。いつもくだらない話で笑わせてくれたり、死んだ父親の話も彩だから話せた」
私の両親は母親の浮気から離婚になったのだが、健斗のところは違う。
健斗の実の父親は病気で、健斗が5歳の頃に亡くなったのだ。
だから再婚当初、健斗はあまり笑わない頑なな印象で、そんな健斗の笑った顔がみたくて私は暇さえあれば健斗に話しかけた。
くだらない話やちょっとクスッと笑えるような、そんな記憶に残らない、どうでもいい話が多かったように思うけど。
「いっつも話しかけてくれて嬉しかったよ。俺はすごく」
「ふうん」
「死んだ父さんのこと話せたの彩だけだったし、和哉さんのことなかなか父親って思えなくて父さんって呼べなくて……悩んでたとき、別に名前呼びでいいじゃんって言ってくれて、なんかほっとしたし……姉貴っていいなって」
健斗がそんな風に思ってくれていたことに嬉しくて胸がいっぱいになる。これからも姉として健斗の心の中にいられるならそれで十分だ。
「って聞いてます?」
「うん……そっかそっか」
もっとまともな返事がしたいのに、心の大切な部分を見られたくなくて、見透かされそうで健斗とろくに目も合わせられない自分がやっばり大キライだ。



