1『好き』







「好き」生まれて初めて、誰かに伝えた。


「いいよ、お願いします」彼女の微笑みに、僕は腰を抜かしそうになる。


僕は、同じクラスの西宮葉月に告白した。
西宮さんは、大人しくて物静かで不思議な雰囲気の人で、気づけば僕は彼女の虜になっていた。

優しく、穏やかな微笑みに目が離せない。

「ほんと?」
「もちろんだよ、その…時太くんが嫌じゃなければ」

西宮さんは苦笑いしながら言う。

「とんでもない、嫌じゃないよ。僕からお願いしたんだし。嫌なわけない」 


僕が慌てて否定すると西宮さんは嬉しそうに手を差し伸べた。


「じゃあ…改めてよろしく、ね?」

僕もその手を取る。
「うん、よろしく」

彼女の手は白くて細く、美しいななんて思った。



 せっかくだし、一緒に帰ってみる事にした。

まだやっぱりぎこちなくて、少し会話しては途切れて、また少し話してはまた途切れての繰り返しだ。

電車に揺られながら西宮さんの横顔をこっそり眺めて見る。


雪のように白い肌と吸い込まれそうな程大きな瞳ー。


いつかイルミネーションに行きたい、あとは花火も。

「ちょ、どうしたの?」
僕の視線に気づいて西宮さんが恥ずかしそうに言う。

「…べ、別に?ちょっと見てただけ…」
「意味わかんない」
「に、西宮さんはえっと…将来どうするかとか決めた?」

話を逸らそうと咄嗟に思いついた質問をする。
西宮さんは少し考えてから「まだ決めてないや」と言った。そっか、と僕は返した後はっとした。

ーえ…?
思わず声が漏れそうになるが無理もない。

先ほどまで笑顔だった西宮さんの顔から笑顔が消えたんだ。寂しそうな顔で、じっと窓の外を眺めている。
でもそれは本当に一瞬。すぐいつもの明るく穏やかな表情に戻り、僕の方を見た。


「また見てる。ってか西宮さんって呼び方ちょっと気になるや」
「え?」
「西宮さんじゃなくて葉月って呼んでよ」
ちょっぴり恥ずかしそうに告げる。


「…葉月。むりむり、恥ずかしい」
「えへへ、でも呼んでくれたじゃん。これからは葉月だよ?」
「わ、分かった…葉月」
さっきの表情については触れないでおこう。気のせいかもしれないし。そうだ、きっと気のせいだ。
僕はそう、自分に言い聞かせた。