「……は?」

ヴァンパイア?どういうこと?

「何?え、でも今……まさに太陽の光浴びてるけど……?」

というか、仕事も普通に日中だし……ん?

「ちょっと待て、マジで整理つかない……」
「うーん、そしたら俺、そろそろ説明していい?」
「うん」

「俺さ、ここ1週間くらい、誰ともセックスしてなくてさ」
「は、はぁ……」

それが何と関係あるの……。

「俺、昨日言ったじゃん?"半年してないと死にかける"って。あれ、結構ガチ」
「ねえ、森。話が見えない」
「まあ、要するに、俺は―――女がいないと死んじゃうんだよ」
「だから、なんであんたは女無しでは生きていけないの?」
「俺の生きる源は―――"女の液"なんだよ」

お…女の液―――?

「…変態バンパイア」
「まあ、そうともいうな」

だから昨日の夜、私の体中を舌で……

「要は、汗でもいいんだ、"女の液"なら。でもそれだけでは限界なんだ」

森は淡々と話す。
私も信じがたい話であるはずなのに冷静に聞いていられている。
思えば、昨日具合悪そうだったのも、1週間セックスしてなかったから?

「汗よりも唾液、唾液よりも―――秘部から滴り落ちる蜜、愛液。愛し合って分泌される液が一番美味しいんだ」

そういう森は、私への視線を上から下へと移す。
布団で覆われているはずの秘部は、森に見透かされているみたいで、少し湿ってきた。

「そして、"契り"な。ゆめは俺と契りを交わしたんだ。もし、他の男に抱かれてみろ。―――寿命が半分になるぞ」

超えのトーンを下げ、少しドスを効かせた森。
私はすかさず言い返したくなって、

「あ、あんたは……3人もセフレがいるじゃない!私もその中に入るってことでしょ?最悪!」
「いや……お前以上に美味しい蜜の味がしないから、交わしていない。」
「え?」
「セフレの蜜も味わうが、俺の心は踊らない。だが、ゆめの味は―――マジで最高。誰にも取られたくない」

そういうと森は私に覆いかぶさり、押し倒してきた。

「ちょっ……」
「ゆめの蜜、味わいたい」
「あ、朝っぱらから…!ちょっと―――!」

森は私の秘部に手を伸ばす。

「すげー濡れてる。舐めさせて」
「あぁ…いやぁっ……んん…!」

森の頭は私の太ももの間に。
そして秘部から溢れる私の蜜を吸い、味わう。
じゅるじゅると卑猥な水音は、部屋をいやらしい空間に変える。
森の舌が、唇が、私の秘部を翻弄する。

「んぁ…美味しい、最高」
「もう…これ以上はっ……あぁ―――!」

秘部の中に舌を出し入れされる。
奥に届かないもどかしさも相まってさらに愛液が零れる。

「吸っても吸っても溢れてくる。一滴残さず味わいさせてもらう」

森は行為を止めない。
もうこの時には、私も、行為を止めてほしくないと思ってしまっていた。
―――もっと感じたい。

「ねぇ…森」
「何?」
「私の奥―――もっと触って?」

いつの間にか、森に懇願していた。


*


「やっぱりゆめの味は最高だな」
「やめて、恥ずかしい」

結局、セックスもした私と森は、今日も仕事ということもあり、理性を効かせて、準備をしている。

「森、絶対私とセックスしただの、契り交わしただの……誰にも言うんじゃないわよ」
「え?」
「え?じゃねーよ、わかった?」
「大丈夫、誰にも言わねえ。俺らだけの秘密。な」
「そうしてね、じゃないと、契約違反で殺すわよ」
「怖」

森の部屋を出ると、すっきりした天気で心も晴れそうなほど。

「いい?出る時間、入る時間も全部バラバラでお願いね」
「はいはい」

もし、森と一緒に出社とかしてみてよ……絶対女性社員に恨まれるから……!
というか、こいつは、モテているという自覚はあるのだろうか。
…あるか、セフレが3人いるんだもんね―――
……あ、私もその仲間に入るのか。付き合ってもないし。

勝手にセフレに追加された私。なんてこったい。
このセフレたちより蜜が美味しいからって嬉しくもないし。……ちょっとだけ。

「おはようございます」

自分の部署―――総務部に行くと、いつもの風景があった。
そこに安堵し、自分の席に座る。

「ゆめ先輩、おはようございますぅ」
「おはよう。今日は寝坊しなかったんだね」
「そんなっ、いつもしてるみたいに言わないで下さいよぉ」

「林野~」

なぜ出社早々、こいつの声を聴かねばならんのか。

「あ、森先輩~!」
「何でしょうか、森さん」
「ちょっとまた態度変わったくね?林野」
「早く用件」
「相変わらず冷たいね~。まあいいや。この申請書と確認書に―――」

A4サイズの数枚の紙の押印箇所を丁寧に教える森。
なんとなく、私越しに森を見つめる視線が気まずい。

「森先輩、元気になってよかったですね、昨日とは全然違いますよぉ」
「おかげでね、美味しい"飲み物"を沢山飲んだから」

ね、と私に視線を移す森。

「いや、知らないし」
「え?嘘だぁ、俺にくれたじゃん。とっても美味しい"飲み物"を」

"飲み物"が何を表すのか。
後輩は知る由もないだろう。というか、知ってほしくない。
仮にも彼女は―――森を狙っている。

「え、そうなんですか!?教えてくださいよぉゆめ先輩~」
「いや、え?」
「ごめんけど、林野にしか作れないんだよ、特別な調味料が必要でね」
「えぇ~ますます知りたいです~」

「森、印鑑押したから、さっさとこれ持って自分の部署に戻れ」
「え?まだ話してる途中」
「いいから、殺すよ」


*


何が"俺らだけの秘密"だよ。
もうさっそく私の後輩にばれかけてるじゃん。あほなの!?

「はぁ……」

屋上に行き、大きくため息をつく。
昨日の空みたいに真っ青だ。

「森の野郎……」
「俺がどうかしたー?」
「げっ……。何でここにいるのよ……」

いつもいつも私の近くにいる森。

「何でってそりゃ―――ゆめと話したくてさ」

そういうと森は私の横に並ぶ。

「私は話すことなんかないけど」
「俺の話聞いてほしい」
「あぁ…、そう。で、何?」

「俺―――3人のセフレ、切ることにしたわ」
「え?はい、ご勝手にどうぞ」
「お前、この意味わかってる?3人のセフレを切るってことは―――俺はゆめ無しじゃ生きていけないんだよ」
「また、セフレ作ればいいんじゃない?」

「いや、ゆめ以上に最高な蜜の味をする奴がいる気がしねえから無理」

そういうと森は、私の左手を握る。

「俺は、ゆめと契りを交わした。だから、俺はゆめしか抱かない」
「なんか、森、自分勝手ね。自分が生き延びる為なら手段を選ばないのはわかるけど、セフレを切るってことは、あんたの命を削っているようなもんなんじゃない?」
「いや、ゆめが毎日、俺とセックスしてくれたら、俺は生きていける。何百年も」

彼はヴァンパイア。人間の姿をした、ヴァンパイア。
見た目は、私と同じ年齢に見える。けど、森は、今は―――何歳?

「森、あなたはこの世に生まれてきて、何百年の時を経たの?」
「うーん、そうだな……ざっと200年ってところかな」
「にっ…200年…?」
「そ。人間界にきて、女の液を吸って生きて。―――200年。」
「森の……ヴァンパイアの世界には戻らないの?」

そういうと森は、にこっとして、

「俺、人間が好きなんだ。ヴァンパイアよりもすっげー優しいから!」

と言った。
森の笑顔を見るのはいつぶりだろうか。
端麗な顔立ちでその笑顔。まさに女性陣を虜にする。

「てことで、今日もよろしくね、ゆめ。定時退社マストで!」