少年は身体を売っていた。
工事現場や工場で身体を使役しての肉体労働をする意味ではない。
街角で人に声をかけられるのを待ち、己の身体を売る行為を行っていた。
男がバイシュンをした
と表現すると「買春」という漢字を多くの人間が想像するだろう。
が、少年の場合のバイシュンは「売春」であった。
少年の年齢は17歳だ。
この国ではあと1年もすれば成人となる。
だから少年と呼称するのはやや大袈裟かもしれない。
しかし、少年の容姿はまさに少年であった。
漆黒の髪は耳の半分を隠している。
眉は少し薄い。
瞳はそれほど大きくはないがくっきりとした二重まぶたのために、本来よりも大きく見える。
鼻筋は通っている。
2つの鼻の穴はちょっとだけ大きい。
上唇は薄く、下唇は厚い。
顎のエラが若干張っている。
少年の顔全体から印象から受けるのは幼さだ。
少年本人は鼻腔が大きいことや顎のエラが張っていることをコンプレックスに思っているが、それをくつがえすほどの美しさが少年にはあった。
耳を半分隠す真っ黒な髪とキメの細かい綺麗な肌が少年をより幼く見えさせていた。
背丈も大きくはなかった。
160センチはあるものの165センチに届いていない。
同年齢の子供に比べて背が小さいのも少年のコンプレックスであったが売春には有利に働いていた。
少年を買う人間には大雑把に2つの種類があった。
ちいさな男の子が好きな女性。
一見、少女に見える男の子が好きな男性。
少年は異性のみならず同性にも売春をしていた。
少年が売春をする相手は女性8、男性2ほどの割合だ。
少年は売春をするにあたりルールを作らされていた。
『1日に取る客は1人までにしろ』
それが定められたルールだった。
なぜそんなルールが決められたのかは少年は理解していない。
少年はあまり頭が良くなかった。
知能に問題があるレベルではない。
客からいくらもらい、ルールを作った人にいくら納めるかの計算はできた。
暇な時には読書もしている。
与えられたスマホで見るニュースは科学系の記事が多い。
少年は学問全般が好きだった。
が、本質は理解できていなかった。
好きこそものの……とはいうが、少年の場合、好きと上手はイコールで結ばれなかった。
少年は自分で自分の頭が良くないことは理解していた。
(僕の頭脳は劣っているな)
と、自覚することはできていた。
頭も良くなく、社会経験がないので命令されるがままに売春行為をしていた。
少年が売春行為をはじめたのはこの国で新型コロナウイルスの流行したあとだった。
今まで街ゆく人々は白いマスクをしていたが、それを外しはじめていた。
新型コロナウイルスが蔓延した時、この国の経済は傾いたらしい。
たった一つの病で、なぜ国の経済が悪くなるのかは少年にはわからなかった。
ただ当時の雰囲気は陰鬱だった。
中学生だった少年の学校はたびたび休校になったし、テレビは毎日の感染者数と死者数を伝えていた。
政府や自治体からの発表は、
「不要不急の外出は控えてください」
というものだった。
(あの時の街は変だったよな)
少年はコンビニの前で1人で立って目の前を行く人々を見つめた。
今は2025年。
元号にすると令和7年だ。
寒さで震える手で少年はスマホを見る。
1月16日木曜日。
20:30。
コンビニの前に立って2時間が経過している。
年末年始は30分もしないうちに客がつかまった。
が、今日はもう2時間もコンビニの前でボケッと突っ立っている。
(早くお客さんが声をかけてくれないかな)
震える手でスマホをポケットに入れ直すと、左右の手をこすり合わせた。
そうすると少しは身体が温まる気がする。
(あと10分でお客さんがつかまらなかったらコンビニで温かい飲み物を買おう)
少年はポケットに入っているはずの小銭を頭に思い浮かべた。
「横、いいかな?」
1人の男性が声をかけてきた。
「どうぞ」
少年はさりげなく返す。
(今日のお客さんは男の人か。乱暴なことをしない人だといいけど)
「ひぃ、ある?」
「ひぃ?」
「火」
男性が手元にあったものを揺らした。
男性の手にはタバコがあった。
どうやらタバコに火を灯せと言ってるらしい。
「すみません、タバコを吸わないんです」
「喫煙所にいるのにタバコを吸わないのか」
「すみません」
「責めてるわけじゃない」
少年がこのコンビニの喫煙所を売春待ちの場として利用し始めてから3カ月ほどが経過していた。
このコンビニの喫煙所は店内から見にくい場所にあった。
コンビニの店員から、「邪魔」と言われたことは今まで一度もない。
少年にとって客待ちをする最適な場所だった。
「じゃあ中で買うか」
男性が少年から離れ、コンビニの出入り口へと向かった。
どうやらライターをコンビニで買うようだ。
(お客さんじゃなかったんだ)
少年は気落ちした。
2分もしないうちに男性が喫煙所に戻って来た。
スタンド式の灰皿を間にして男性がタバコに火をつける。
男性はうまそうにタバコを呑むと、ゆるゆると煙を吐き出した。
副流煙が少年の顔にかかる。
「ん」
男性が声とともに少年の目の前に何かを突き出す。
少年は驚いた顔で目の前のものを見た。
ココアだった。
「急に声をかけて悪かったな。詫びだよ」
「いただいていいんですか?」
「そのために買ったんだよ」
「あ、ありがとうございます!」
「大袈裟だな」
男性が灰皿にタバコを押し当てて笑う。
少年はココアを受け取る。
ココアは温かった。
ボトルのキャップを取ると、一口ずつゆっくり喉に流し込んでいく。
ココアの甘さと温かさが身体全体に広がる。
「こんなとこで何してたんだ?」
「人を待ってました」
「塾の帰りで親御さんか?」
「いえ」
「友達か?」
「いえ」
「誰を待ってるんだ」
「知らない人です」
「意味がわからんな」
少年は身体を売っていることを話した。
男性はパッケージからタバコを出した。
タバコをくわえ火をつけてから言う。
「世も末だな。こんな街で」
確かにこの街は大きくない。
繁華街とは言えるが首都圏の繁華街ほど人混みは多くない。
「ここはラブホが多いですから」
「なるほどな」
この街はラブホテル街として有名だった。
飲み屋もたくさんあるが、それに呼応するようにラブホテルがあちこちにある。
実際に少年が立つコンビニの前も腕を組むカップルが何人も通って行った。
男性が一服すると言う。
「必要条件はそろってるわけだ」
少年は、
(今だ)
と思った。
「もし良かったら僕を買いませんか?」
「俺が?」
「はい。男性相手も慣れているつもりです。満足させる自信はあります」
「本当に世も末だな」
「駄目ですか?」
少年は上目遣いで男性を見た。
少年が女性や男性を落とす時のポーズだ。
これで首を横に振らなかった人間は少ない。
「……」
男性は明らかに動揺している。
まだ半分も吸っていないタバコを灰皿に押し付けた。
さらにもう1本のタバコを取り出す。
せっかちな動作でライターで火をつけ、急いで煙を肺に入れる。
鼻と口から白い煙を出すとつぶやいた。
「じゃあ買うか」
「ありがとうございます!」
「いくらだい?」
少年はいつも通りの値段を告げる。
「ずいぶんと高いな」
「すみません」
「一晩でそれか?」
「はい」
「少しくらい安くならないのか?」
「すみません、決められた値段なので」
「お前が決めてるんじゃないのか」
「はい。おじさんに決めてもらってます」
「……」
男性が周囲を見渡す。
コンビニの中や出入り口、駐車場のあたりに視線を送る。
「怖いおじさんが見張ってるのか?」
「見張ってはないと思います」
「見張られてはいないけど、そのおじさんとやらが値段を付けてお前が稼ぐわけだ」
「はい」
「で、おじさんはいくらお前から差っ引くんだ?」
少年はいつもおじさんに手渡す金額を伝えた。
「お前、馬鹿だろ」
「……」
「どういう理由があるのかわからんが、お前の取り分は安すぎる」
「……」
少年は黙った。
「初めてお前を見た時、女の子だと思った。火をもらおうと、声を聞いても『中性的な女の子だな』と思ったくらいだ」
声が高いのも少年のコンプレックスだった。
が、そのコンプレックスは男に性を売る時にはメリットになっていた。
「男にしろ女にしろ、14歳以下はやっぱりまずいな。今は法律が変わっていろいろとヤバいってネットで出てるからな」
「僕17歳なんですけど」
「マジか」
男性が少年をまじまじと見つめる。
「じゃあ大丈夫か」
男性はタバコを吸い、自身に言い聞かせるように言った。
(この人もあまり頭がよくないのかもしれない)
少年はふと思った。
少年は法律に疎い。
確かに14歳以下と性交渉をしたならばどんな言い逃れもできないと知識としてはある。
が、18歳以下もあまり変わらなかったのではなかろうか。
(ま、いいか)
とも思う。
(仮におまわりさんのお世話になったとしても捕まるのはこの人で僕じゃないし)
もし第三者が少年の心の声を聞いたら、やはり少年の頭脳も悪い、というレッテルが貼られるだろう。
2本目を吸い終えると男性はタバコを灰皿に押し付けた。
吸い殻がスタンド式の灰皿の中に落ちる。
「じゃあ、行くか」
「ありがとうございます!」
少年は言いながら手に持っているカバンの中身を思い浮かべる。
(男の人を相手する時の道具がかなり少ない。この人が口だけで満足してくれるといいけど)
男性が分厚いジャンパーの中身を探っている。
ジャンパーの中から何かを取り出す。
それは財布だった。
男性は財布から4枚の紙幣を取り出した。
「お代は終わってからでいいですよ」
「そうなのか?」
「はい、僕の場合は、ですけど」
「俺、風俗とか使ったことがなくて知らないんだ」
「そうなんですか」
「じゃあ、行くか」
「わかりました」
男性がラブホテル街向けて足を進めた。
少年もそれに従う。
道中、少年の手が男性の手に触れた。
少年は手を握ろうかと思ったが男性がすぐに避けたのでやめた。
男性の背が高いせいだろうか。
少年の背が低いせいだろうか。
ふたりの足取りはそろわず、常に男性が前になるように歩みを進めていた。
少年はやや急ぎ足で男性のあとについて行ったのだった。
工事現場や工場で身体を使役しての肉体労働をする意味ではない。
街角で人に声をかけられるのを待ち、己の身体を売る行為を行っていた。
男がバイシュンをした
と表現すると「買春」という漢字を多くの人間が想像するだろう。
が、少年の場合のバイシュンは「売春」であった。
少年の年齢は17歳だ。
この国ではあと1年もすれば成人となる。
だから少年と呼称するのはやや大袈裟かもしれない。
しかし、少年の容姿はまさに少年であった。
漆黒の髪は耳の半分を隠している。
眉は少し薄い。
瞳はそれほど大きくはないがくっきりとした二重まぶたのために、本来よりも大きく見える。
鼻筋は通っている。
2つの鼻の穴はちょっとだけ大きい。
上唇は薄く、下唇は厚い。
顎のエラが若干張っている。
少年の顔全体から印象から受けるのは幼さだ。
少年本人は鼻腔が大きいことや顎のエラが張っていることをコンプレックスに思っているが、それをくつがえすほどの美しさが少年にはあった。
耳を半分隠す真っ黒な髪とキメの細かい綺麗な肌が少年をより幼く見えさせていた。
背丈も大きくはなかった。
160センチはあるものの165センチに届いていない。
同年齢の子供に比べて背が小さいのも少年のコンプレックスであったが売春には有利に働いていた。
少年を買う人間には大雑把に2つの種類があった。
ちいさな男の子が好きな女性。
一見、少女に見える男の子が好きな男性。
少年は異性のみならず同性にも売春をしていた。
少年が売春をする相手は女性8、男性2ほどの割合だ。
少年は売春をするにあたりルールを作らされていた。
『1日に取る客は1人までにしろ』
それが定められたルールだった。
なぜそんなルールが決められたのかは少年は理解していない。
少年はあまり頭が良くなかった。
知能に問題があるレベルではない。
客からいくらもらい、ルールを作った人にいくら納めるかの計算はできた。
暇な時には読書もしている。
与えられたスマホで見るニュースは科学系の記事が多い。
少年は学問全般が好きだった。
が、本質は理解できていなかった。
好きこそものの……とはいうが、少年の場合、好きと上手はイコールで結ばれなかった。
少年は自分で自分の頭が良くないことは理解していた。
(僕の頭脳は劣っているな)
と、自覚することはできていた。
頭も良くなく、社会経験がないので命令されるがままに売春行為をしていた。
少年が売春行為をはじめたのはこの国で新型コロナウイルスの流行したあとだった。
今まで街ゆく人々は白いマスクをしていたが、それを外しはじめていた。
新型コロナウイルスが蔓延した時、この国の経済は傾いたらしい。
たった一つの病で、なぜ国の経済が悪くなるのかは少年にはわからなかった。
ただ当時の雰囲気は陰鬱だった。
中学生だった少年の学校はたびたび休校になったし、テレビは毎日の感染者数と死者数を伝えていた。
政府や自治体からの発表は、
「不要不急の外出は控えてください」
というものだった。
(あの時の街は変だったよな)
少年はコンビニの前で1人で立って目の前を行く人々を見つめた。
今は2025年。
元号にすると令和7年だ。
寒さで震える手で少年はスマホを見る。
1月16日木曜日。
20:30。
コンビニの前に立って2時間が経過している。
年末年始は30分もしないうちに客がつかまった。
が、今日はもう2時間もコンビニの前でボケッと突っ立っている。
(早くお客さんが声をかけてくれないかな)
震える手でスマホをポケットに入れ直すと、左右の手をこすり合わせた。
そうすると少しは身体が温まる気がする。
(あと10分でお客さんがつかまらなかったらコンビニで温かい飲み物を買おう)
少年はポケットに入っているはずの小銭を頭に思い浮かべた。
「横、いいかな?」
1人の男性が声をかけてきた。
「どうぞ」
少年はさりげなく返す。
(今日のお客さんは男の人か。乱暴なことをしない人だといいけど)
「ひぃ、ある?」
「ひぃ?」
「火」
男性が手元にあったものを揺らした。
男性の手にはタバコがあった。
どうやらタバコに火を灯せと言ってるらしい。
「すみません、タバコを吸わないんです」
「喫煙所にいるのにタバコを吸わないのか」
「すみません」
「責めてるわけじゃない」
少年がこのコンビニの喫煙所を売春待ちの場として利用し始めてから3カ月ほどが経過していた。
このコンビニの喫煙所は店内から見にくい場所にあった。
コンビニの店員から、「邪魔」と言われたことは今まで一度もない。
少年にとって客待ちをする最適な場所だった。
「じゃあ中で買うか」
男性が少年から離れ、コンビニの出入り口へと向かった。
どうやらライターをコンビニで買うようだ。
(お客さんじゃなかったんだ)
少年は気落ちした。
2分もしないうちに男性が喫煙所に戻って来た。
スタンド式の灰皿を間にして男性がタバコに火をつける。
男性はうまそうにタバコを呑むと、ゆるゆると煙を吐き出した。
副流煙が少年の顔にかかる。
「ん」
男性が声とともに少年の目の前に何かを突き出す。
少年は驚いた顔で目の前のものを見た。
ココアだった。
「急に声をかけて悪かったな。詫びだよ」
「いただいていいんですか?」
「そのために買ったんだよ」
「あ、ありがとうございます!」
「大袈裟だな」
男性が灰皿にタバコを押し当てて笑う。
少年はココアを受け取る。
ココアは温かった。
ボトルのキャップを取ると、一口ずつゆっくり喉に流し込んでいく。
ココアの甘さと温かさが身体全体に広がる。
「こんなとこで何してたんだ?」
「人を待ってました」
「塾の帰りで親御さんか?」
「いえ」
「友達か?」
「いえ」
「誰を待ってるんだ」
「知らない人です」
「意味がわからんな」
少年は身体を売っていることを話した。
男性はパッケージからタバコを出した。
タバコをくわえ火をつけてから言う。
「世も末だな。こんな街で」
確かにこの街は大きくない。
繁華街とは言えるが首都圏の繁華街ほど人混みは多くない。
「ここはラブホが多いですから」
「なるほどな」
この街はラブホテル街として有名だった。
飲み屋もたくさんあるが、それに呼応するようにラブホテルがあちこちにある。
実際に少年が立つコンビニの前も腕を組むカップルが何人も通って行った。
男性が一服すると言う。
「必要条件はそろってるわけだ」
少年は、
(今だ)
と思った。
「もし良かったら僕を買いませんか?」
「俺が?」
「はい。男性相手も慣れているつもりです。満足させる自信はあります」
「本当に世も末だな」
「駄目ですか?」
少年は上目遣いで男性を見た。
少年が女性や男性を落とす時のポーズだ。
これで首を横に振らなかった人間は少ない。
「……」
男性は明らかに動揺している。
まだ半分も吸っていないタバコを灰皿に押し付けた。
さらにもう1本のタバコを取り出す。
せっかちな動作でライターで火をつけ、急いで煙を肺に入れる。
鼻と口から白い煙を出すとつぶやいた。
「じゃあ買うか」
「ありがとうございます!」
「いくらだい?」
少年はいつも通りの値段を告げる。
「ずいぶんと高いな」
「すみません」
「一晩でそれか?」
「はい」
「少しくらい安くならないのか?」
「すみません、決められた値段なので」
「お前が決めてるんじゃないのか」
「はい。おじさんに決めてもらってます」
「……」
男性が周囲を見渡す。
コンビニの中や出入り口、駐車場のあたりに視線を送る。
「怖いおじさんが見張ってるのか?」
「見張ってはないと思います」
「見張られてはいないけど、そのおじさんとやらが値段を付けてお前が稼ぐわけだ」
「はい」
「で、おじさんはいくらお前から差っ引くんだ?」
少年はいつもおじさんに手渡す金額を伝えた。
「お前、馬鹿だろ」
「……」
「どういう理由があるのかわからんが、お前の取り分は安すぎる」
「……」
少年は黙った。
「初めてお前を見た時、女の子だと思った。火をもらおうと、声を聞いても『中性的な女の子だな』と思ったくらいだ」
声が高いのも少年のコンプレックスだった。
が、そのコンプレックスは男に性を売る時にはメリットになっていた。
「男にしろ女にしろ、14歳以下はやっぱりまずいな。今は法律が変わっていろいろとヤバいってネットで出てるからな」
「僕17歳なんですけど」
「マジか」
男性が少年をまじまじと見つめる。
「じゃあ大丈夫か」
男性はタバコを吸い、自身に言い聞かせるように言った。
(この人もあまり頭がよくないのかもしれない)
少年はふと思った。
少年は法律に疎い。
確かに14歳以下と性交渉をしたならばどんな言い逃れもできないと知識としてはある。
が、18歳以下もあまり変わらなかったのではなかろうか。
(ま、いいか)
とも思う。
(仮におまわりさんのお世話になったとしても捕まるのはこの人で僕じゃないし)
もし第三者が少年の心の声を聞いたら、やはり少年の頭脳も悪い、というレッテルが貼られるだろう。
2本目を吸い終えると男性はタバコを灰皿に押し付けた。
吸い殻がスタンド式の灰皿の中に落ちる。
「じゃあ、行くか」
「ありがとうございます!」
少年は言いながら手に持っているカバンの中身を思い浮かべる。
(男の人を相手する時の道具がかなり少ない。この人が口だけで満足してくれるといいけど)
男性が分厚いジャンパーの中身を探っている。
ジャンパーの中から何かを取り出す。
それは財布だった。
男性は財布から4枚の紙幣を取り出した。
「お代は終わってからでいいですよ」
「そうなのか?」
「はい、僕の場合は、ですけど」
「俺、風俗とか使ったことがなくて知らないんだ」
「そうなんですか」
「じゃあ、行くか」
「わかりました」
男性がラブホテル街向けて足を進めた。
少年もそれに従う。
道中、少年の手が男性の手に触れた。
少年は手を握ろうかと思ったが男性がすぐに避けたのでやめた。
男性の背が高いせいだろうか。
少年の背が低いせいだろうか。
ふたりの足取りはそろわず、常に男性が前になるように歩みを進めていた。
少年はやや急ぎ足で男性のあとについて行ったのだった。


