そして、寝室には美咲以外に誰もいない。大翔はリビングのソファで休んでいるはずだ。
昨夜、お風呂から出ると洗面所には替えの下着やスキンケア一式が用意されていた。大翔いわく、マンションのコンシェルジュの女性スタッフに頼んで買ってきてもらったのだという。さすがにあの時間では着替えのパジャマまで用意するのは難しかったようで、部屋着は彼のものを借りている。
なぜ美咲が本来の部屋の主を差し置いてここで眠っていたのかといえば、大翔が頑としてソファで寝ることを許してくれなかったからだ。
一晩だけ泊めてもらう立場の美咲は当然リビングのソファで眠るつもりだったが、彼は『女性をソファで眠らせておきながら、自分だけベッドで寝るなんてできない』と譲らなかった。
大翔が優しいのは八年前からわかっているし、こうと決めたら意外と頑固なことも知っている。だから美咲が折れるしかなかったのだ。
(まずはお礼を言って、とにかくここを出ないと)
自宅に帰るという選択肢はない。いずれ荷物を取りに行かなくてはならないにしろ、今はまだ悠輔の顔を見たくなかった。



