(私とは電話じゃなくメッセージだけなのに、あの人とは寝不足になる時間まで電話してたの? あの人に会うために私との約束をキャンセルしたってこと……?)
目の前が真っ暗になり、慌ててフロアからパントリーへと足早に戻った。
佐奈の思うツボにはまりかけた美咲は、悪い考えから逃れるように頭を左右に振る。今はバイト中なのだ。余計なことを考えていないで、きちんと仕事をしなくては。
(大翔さんからはなにも聞いてないんだから、勝手に不安になったり落ち込んだりしても意味がない)
そう結論付け、思考を振り切るように仕事に没頭した。そのおかげで大きなミスはなく、間もなく退勤の時間になりそうな頃。佐奈たちの会計を担当した際、彼女は美咲にだけ聞こえる声で言った。
『今、大翔が体調を崩してるのを知ってる?』
まったく知らない情報に、美咲は声を失った。それを見て、佐奈は勝ち誇ったように続ける。
『やっぱり知らなかったのね。これから本格的な訓練に入るのに、弱さを見せられず相談相手にもならない恋人の存在なんて邪魔なだけよ。もう十分恋人ごっこは楽しんだでしょう? そろそろ彼を解放してあげて。彼に必要なのは、同じ悩みや志を持つ相手よ』
彼女の言葉は、脆くなっていた美咲の心をへし折るには十分すぎるほどの威力だった。



