そんなある日、大翔がアメリカの訓練を終えて戻ってきたと篤志から知らされた。会いたいと伝言を受けたが、美咲はとても頷けなかった。
別れてから一年が経っているにもかかわらず、いまだに美咲を想ってくれている事実にときめかなかったかといえば嘘になる。
それでも当時、美咲の心はピンと張り詰めており、兄に甘えずに自立しなくては、頑張らなくてはと過剰な緊張状態にあったように思う。自分でもそれを自覚しながら、緩めてしまえば崩れ落ちてしまいそうな気がして肩の強張りを和らげられずにいた。
そんな時に大きな包容力を持つ大翔に会ってしまったら、自分から酷い言葉を投げつけて別れたにもかかわらず甘えたくなる。そうなれば、美咲は間違いなく彼がいなくては生きていけなくなるだろう。
『まさか大翔があなたみたいな子供を選ぶなんてね。お願いだから、仕事の邪魔だけはしないであげて』
耳にこびりついた女性の声が脳裏を掠めた。パイロットとして大事な時期である彼の邪魔はしたくないし、美咲はいまだに嫉妬心を克服できる気がしない。それに、彼を支えられるだけの大人になってもいない。
だから、決して大翔に会うわけにはいかなかった。
兄はなにか言いたげにしていたけれど、美咲の意思を汲んで決して大翔に住所を教えることはなかったし、会いに来ないように釘を刺したとも言っていた。



