美咲の父は、JCAのパイロットとして働いていた。優しくて穏やかで、職場の同僚や部下にも慕われていたと聞く。
空を飛ぶのが生き甲斐だと言っていた父は母が亡くなって以降、まだ小学生だった篤志と美咲を家に残して海外ステイをしたくはないと、国際線には一切乗務しなくなった。
長年のキャリアと功績が認められ、国内線の便をこなしながら、主に新人パイロットの育成に携わっていた家族思いの父。
そんな彼の葬儀には多くのJCA職員が詰めかけ、突然の早すぎる死を悼んでくれた。しかし美咲は現実を受け入れられず、ただ呆然とその光景を眺めるしかできない。
落ち込む美咲を励まし、これまで以上になにかと気にかけてくれる兄は、その頃JCAのパイロット候補生として訓練中。
ただでさえ忙しいのに父の葬儀やその後の諸々の手続きに追われ、さらに自分のフォローまでさせてしまったと気付いた時、美咲はようやく正気に返った。
やはり自分は甘ったれた子どもだ。そう痛感した美咲は、しっかりしなくてはと必死に自分を奮い立たせ、兄とふたり暮らしを始めた新しいマンションで生活の立て直しを図った。
大学と家事、そして再び始めたバイトのすべてを並行してこなし、大翔と別れた喪失感や父を失った悲しみから目を逸らし続ける毎日。



