手早く洗って出るつもりだったが、ここで風邪を引いたらさらに迷惑をかけることになると考え直し、ゆっくりお湯に浸からせてもらうことにした。
(大翔さんは、どうしてこんなふうに優しくしてくれるんだろう)
友人の妹とはいえ、八年前に一方的に別れを突きつけた相手だ。
それも、自社養成パイロットとして訓練に励む彼に対し『そばにいてくれないパイロットとは付き合いたくない』という最低な理由で――。
美咲はぶくぶくと鼻までお湯に沈めながら、彼に別れを告げた時のことを思い出す。
『ごめんなさい。この先そばにいてくれない大翔さんを、どうやって信じたらいいのかわかりません』
そう告げたのは、二十歳の誕生日の前日だった。なんの前触れもなく、唐突に自分の気持ちだけをぶつけた。
あの頃の美咲は〝元恋人〟という存在に嫉妬し、一緒の職場で仲よさそうに働いている姿に耐えきれなかった。
今思えば、なんてひとりよがりな子供だったのだろう。



