「就活の時期に余裕だなって思った記憶がある」
「あぁ、そうだったかも。お前らふたりとも目立つから、結構キャンパス内で話題になったよな」
「やだぁ。そんな昔のこと、よく覚えてるわね」
佐奈は声を弾ませて友人たちの話題を引き取ると、幸せな過去を懐かしむように話し始めた。
「たしか三年の夏頃よね。同じ航空業界を目指してるって知って興味を持ったの。あの頃は楽しかったわ。毎日勉強して、好きなように遊んで、青臭い未来について語って。同じ目線で話せる優秀な人と付き合ったのは、あとにも先にも大翔だけよ」
大翔が冷ややかな視線を向けているのにも気付かず、佐奈は話し続ける。
「私ね、去年やっと元夫と離婚が成立したの。実業家でいくつも会社を持っていたんだけど、よくわからない投資話に騙されて一文無し。おまけに私以外にも何人も女がいたのよ。信じられる?」
そして、美しいネイルの施された指先をそっと大翔の腕に添える。
「ねぇ、大翔。私たち、もう一度やり直してみない?」
そう問いかける彼女は、断られるとは微塵も思っていないのだろう。誘うような声音は自信に満ち溢れていて、あえて周囲に聞かせるつもりなのか場違いに大きい。周囲の注目が自分に集まる気持ちよさに酔っているのが見て取れる。



