仕事を終えてマンションに帰ると、美咲を出迎えてくれたのは部屋の主である大翔ではなく、リビングのソファに座る兄の篤志だった。
「えっ! お兄ちゃん、どうしたの?」
「俺も今日は自宅スタンバイだったから、一緒に飯でも食おうと思って」
「食材買い込んで、突然うちに来たんだよ」
自宅のように寛ぐ篤志に対し、大翔がキッチンから呆れた声で言った。
自炊ができる大翔とは違い、篤志は壊滅的に料理が下手だった。
美咲とふたり暮らししていた時も積極的に家事をしていた篤志だが、料理だけは美咲が担当していた。なんでもそつなくこなす兄の珍しい弱点である。
大翔は篤志の要望を聞いて料理をしている途中らしく、リビングには肉の焼ける香ばしいにおいが漂っていた。
「もう、連絡くれたら私が作りに行ったのに。ごめんなさい、大翔さん。手伝います」
手を洗って慌ててキッチンへ行くと、大翔は料理の手を止めて美咲の肩をふわりと引き寄せた。
「いや、大丈夫だよ。おかえり、美咲」



