親指で目尻を撫でられ、恥ずかしさや気まずさに顔がぶわっと熱くなる。
「いえ、雨が目に入っちゃっただけで……。あの、じゃあ失礼します」
軽く頭を下げてそそくさと立ち去ろうとすると、大翔は意外な質問をしてきた。
「篤志に会いに来た? あいつ、今留守だよ」
「えっ?」
美咲は目を見張った。
頭に浮かんだ様々な疑問に対し、彼から想定外の答えが返ってきた。
「俺もここに住んでるんだ。先週ジムで会った時にフライトの予定を聞いたから間違いない。今頃パリにいるはずだよ」
絶句している美咲とは対照的に、落ち着いた様子の大翔は腕時計で時間を確認しながらそう言った。
篤志がフライトで家にいないかもしれないとは予想していた。けれど、まさかこのマンションに大翔が住んでいて、再会するなんて考えてもみなかった。
(お兄ちゃん、そんなことひと言も……)



