(あの時の笑顔をずっと守りたいと思っていたのに)
そんな彼女に根も葉もない嘘を吹聴し、自分との関係を匂わせ、不安の種を植え付けていたのは、過去に大翔と交際していた北見佐奈だった。
佐奈とは同じ航空会社を志す同志として話す機会が増え、告白されて交際に発展した。過去の恋人と同様、自分から好きになったわけではないけれど、それでも誠実に付き合うつもりだった。
けれど、付き合い始めてすぐに合わないと感じた。優秀で知見のある彼女と話すのは楽しかったけれど、優秀だからこそなのか驕った部分があり、一緒にいる時間が長くなるほど他人を見下すような言動が目についた。
価値観の相違から些細な言い合いが増え、佐奈が浮気に走り、結局三ヶ月ほどで破局した。
『北見佐奈さんって、大翔さんと付き合ってたんですよね……?』
美咲が不安げな顔で聞いてきた時、なぜ知っているのかと驚いた。今思えば、それを問うことをしなかったのが痛恨の極みだ。
佐奈とは最低限の関わりしかもたないようにしていたし、大翔の気持ちは美咲にしか向いていない。だからこそ『仕事で話しているだけだ』という簡潔な説明しかしなかった。当時の不甲斐ない自分を殴りつけたい気分だ。
美咲の『大丈夫』という不安を押し隠した笑顔に気づかず、大切にしているつもりになっていたなんて――。



