「ごめん、美咲。でも話を聞いてくれ! 本当に、普段ならこんなこと絶対に――」
「やめて。今はなにも聞きたくないし、顔も見たくない」
ふたりで住んでいる家に、女性を連れ込んでいた。普段美咲と一緒に生活している場所で、ともに寝起きしている寝室で、悠輔は他の女性を抱いたのだ。そんなところで話など聞けるはずがない。
「今日限りで別れる。さよなら」
美咲はそれだけ言うと、唇を引き結んで踵を返す。後ろから引き止める悠輔の叫び声がしたけれど、決して振り返らなかった。
たった今歩いてきたばかりの廊下を戻ってエレベーターで一階に下りる。
エントランスホールから踏み出そうとしたところで、玄関に傘を置きっぱなしにしてしまったことに気がついた。
「もう、最悪……」
けれど取りに戻るなんて無様なことはできない。そのままマンションの敷地を出て、雨に降られながら足早に歩き続ける。
降りしきる雨が髪を湿らせ、サイドに垂らした後れ毛から頬に雫が伝う。おしゃれに見えるようにルーズに結んでいたヘアスタイルも、単なるボサボサ頭になっていることだろう。



