○学校・教室(ホームルームの時間)
紗奈M「季節は9月。高校2年生の私たちは修学旅行を来月に控えている。
先生、教卓で修学旅行の説明をしている。
先生「え〜、修学旅行は例年通り2泊3日になりますー。1日目はグループ行動、2日目は自由行動になりまーす。自由行動は2人組以上であればいいので、好きに組んでメンバーの名前を書いて提出してくださーい」
紗奈、隣の席の恵と話す。
紗奈「楽しみだなぁ、修学旅行!」
恵「私も!」
紗奈「どこ行こっか〜。食べ歩きもいいし、神社巡りも楽しそう! あ〜、楽しみすぎる〜。というか、自由行動、2人で大丈夫だった? 他に誘いたい人いる?」
恵「あのさ、陽介と話してたんだけどさ、自由行動、陽介達と一緒に回ってもいいかな? 陽介、青山くんと同じクラスで仲良いでしょ?」
紗奈「4人で回るってこと?」
恵「……うん、駄目かな?」
紗奈「良いに決まってるじゃん! せっかくだもん、彼氏と思い出作った方がいいよ! 私も壮平がいるなら気楽だし!」
恵「紗奈、ありがとう! 恩に着る!」
○コンビニ・壮平のバイト先(夕方)
壮平、レジの前で立っている。
紗奈の声「これ、くーだーさいっ!」
壮平、1 Lの牛乳と250mlサイズの紙パックの野菜ジュースをレジに通す。
壮平「340円になりま……」
壮平、目の前に紗奈がいることに気がつき、驚いた顔をする。
壮平「なんだ、紗奈か! 普通に声かけろよ〜」
壮平、苦笑いする。
紗奈「お家の牛乳きれてたから買いに来た! 6時に終わるよね? そこでお茶して待ってるね」
紗奈、コンビニのイートインスペースに座り、野菜ジュースを飲んでいる。
壮平M「お茶してるって……。コンビニのイートインスペースをお洒落なカフェのような表現で言うな」
紗奈、壮平の視線に気づいてニコッと笑う。
壮平、呆れた笑顔。
× × ×
時間経過。
○住宅街・路上(夕方)
紗奈「コンビニのバイトって、覚えること多そうで大変だよね」
壮平「最初は大変だったけど、今は慣れた。それよりも、レジ担当の時とかはずっと立ってることがキツイかも」
紗奈「確かに!ちょっと動きたいよね! あ! そういえば、陽介くんから修学旅行の話聞いた?」
壮平「ああ、一緒に回るって話だろ? 楽しみだな!」
紗奈「うん! 壮平と陽介くんが仲良しで良かったよ〜。でもさ、2人の邪魔になりそうだったらさ、途中で私たち抜けようね! ちゃんとデートしていい思い出作ってほしいもんね!」
壮平「そしたら俺らも2人きりだから、デートじゃん」
紗奈「まぁ、そういうことになるか! 私たちも楽しい思い出作ろう!」
紗奈、くしゃっと笑う。
壮平「おう」
紗奈「このあと、行きたいところ計画しよ! 7時集合ね!」
壮平「はやっ、あと20分じゃん」
壮平、可笑しそうに笑う。
○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)
20時過ぎの時計。
壮平M「7時集合って言ったやつは誰だ」
壮平、呆れた顔。
壮平「まぁいいや、遅刻なんて想定内だし、一旦寝てよ〜」
× × ×
時間経過。
○壮平の自宅玄関(夜)
紗奈、壮平の自宅のインターフォンを押す。
「ピンポーン」
紗奈「あれ? いない?」
紗奈、ドアノブを引くとドアが開く。
紗奈「あれ、鍵開いてる」
紗奈、ドアの隙間から顔だけ覗き、
紗奈「壮平〜? 入っちゃうよ〜? お邪魔しまーす」
紗奈、壮平の自宅に入る。
○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)
壮平、ベッドで寝ている。
紗奈、かがんで壮平の寝顔を見る。
紗奈M「小さい頃は一緒の布団でよく寝てたから、しょっちゅう寝顔見てたけど、こうやってまじまじ見るのって何年振りだろう」
紗奈、じっと見つめる。
壮平の綺麗な肌、高い鼻筋、サラサラの黒髪。
紗奈「綺麗な寝顔」
紗奈、壮平の頬を指でツンツンと触る。
紗奈「ふふふ。こう見ると、子どもに戻ったみたいで可愛い」
壮平、寝ぼけたまま紗奈をベッドに引き寄せて、抱きしめる。
紗奈「え、壮平!?」
壮平「好きだ……」
紗奈M「え、夢見てるの?」
壮平「どこにも行くな」
壮平の抱き締める腕に力が入る。壮平、寝ながら悲しそうな顔をしている。
紗奈M「どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?」
紗奈「……壮平? 大丈夫?」
紗奈、壮平の腕を優しく叩き、起こそうとする。
壮平の手が、紗奈の部屋着の中に入り、胸を触ろうとする。
紗奈、顔が真っ赤になる。
紗奈「ぎゃー!!」
紗奈、パンチをして壮平がベッドから落ちる。
壮平「いってぇ……」
顔をしかめる壮平。
紗奈「大丈夫? ごめん!」
ベッドのそばで、慌てて心配する紗奈。
壮平「あれ? 紗奈。いつ来たの?」
紗奈「……今!」
紗奈、顔を赤くしたまま俯き、壮平と目が合わない。
壮平「ん? これってどういう状況だった?」
冷や汗をかく壮平。
紗奈「いや、えっとその……。部屋に着いたら壮平が寝てて……、起こしたら落ちちゃったみたい……」
不自然な紗奈の様子に、焦る壮平。
壮平「俺、……もしかしてなんか紗奈にした?」
紗奈「全然全然!! なんにもなんにも!!」
顔が赤いまま慌てる紗奈を見て、凹む壮平。
壮平M「なにしたんだ、俺!」
紗奈「あっ、そうだ! 行きたいとこ調べよ〜?」
紗奈、ローテーブルの前に座り、スマートフォンを見始める。
紗奈「ここの牡蠣は絶対食べたいんだよね〜!」
壮平、紗奈の真隣に座る。
壮平「(紗奈の顔を覗き込みながら)あのさ、紗奈の顔見てたらだいたい嘘ついてることくらい分かるから。俺が紗奈になんかしちゃったんだよな? ごめんな?」
紗奈、首を横に振る。
壮平「俺何した? 教えてくれない? 知らないまま、紗奈の嫌がることしてたら俺が嫌なんだ」
紗奈、恥ずかしそうに壮平をじーっと見つめる。
壮平、見つめ返す。
紗奈、目を逸らして、
紗奈「(ボソボソした話し方で)服の中に手を入れられて、胸を触られそうになった」
壮平、顔を赤くし驚いた顔をする。
壮平、ローテーブルに顔を伏せる。
壮平「ほんとごめん。俺の想像超えてた」
壮平、凹んでブツブツ独り言を呟く。
壮平「サイテーだー。クズすぎるー。あー、消えてぇー」
紗奈「ふふふ」
紗奈、可笑しそうに笑う。
紗奈「いいよ、寝ぼけてたんだし。怒ってもないし傷ついてもないよ! びっくりはしたけどね。それに私もごめん! 思いっきり壮平のこと殴っちゃった! おあいこね!」
紗奈、ニコニコした顔で話す。
壮平「(目を逸らしながら)ごめん。……ありがとう」
紗奈「でも、壮平、欲求不満なんだね」
紗奈、ニヤニヤしながらからかう。
壮平「うっせー。健全な高2男子だわ!」
紗奈、大笑いする。
○修学旅行 1日目 大型バス・車内
紗奈M「今日から待ちに待った2泊3日の修学旅行! お天気も快晴です」
隣同士で座る紗奈と恵。
紗奈「あ〜、楽しみすぎて昨日の夜、全然寝れなかったんだよねぇ。寝不足〜」
恵「小学生か!」
紗奈「ははは」
× × ×
(フラッシュ)
博物館の中を回る紗奈と恵。巨大な恐竜の骨の再現を見上げる紗奈と恵。
× × ×
× × ×
(フラッシュ)
植物園の中を歩いている紗奈と恵。パイナップルの実をじっと観察する紗奈と恵。
× × ×
○宿泊先・部屋(夜)
紗奈「はぁ〜、楽しかった〜」
敷布団の上に座る紗奈。
紗奈M「それにしても、みんな大浴場いいなぁ。私は生理だから部屋のシャワーでサクッと終わっちゃったよ。あー、暇だな」
布団だけがたくさん敷かれた、誰もいない畳の部屋。
紗奈M「みんなしばらく帰ってこないだろうし、ホテル探索でもするか」
紗奈、浴衣を来たまま廊下に出る。
○宿泊先・廊下(夜)
紗奈M「あ、お土産屋さん見るのも楽しいじゃん、そうしよう!」
紗奈、廊下の角を曲がろうとしたとき、男女の声が聞こえて立ち止まる。こっそり覗くと、そこには壮平と、壮平と同じクラスの女子生徒が向かい合って立っている。
女子生徒「来てくれてありがとう。もう気づいてると思うんだけど、私……、青山くんのことが好きなの! 付き合ってくれませんか!」
壮平「……ありがとう。でも、ごめん」
女子生徒「なんで?」
壮平「好きな人がいるんだ」
女子生徒「それって、竹内さん?」
紗奈、驚いた顔をする。
紗奈M「私!?」
壮平「内緒」
女子生徒「そうだよね、ごめんごめん! 時間作ってくれてありがとう! おやすみ!」
壮平「おやすみ」
紗奈、また曲がり角に隠れて深呼吸をする。
紗奈M「また幼馴染の告白される現場を目撃してしまった。お土産屋さんに行きたいのに……。しょうがない、遠回りするか」
壮平「おい!」
紗奈、振り返ると壮平がいる。
紗奈「あ……、壮平! いたんだぁ! ははは」
紗奈、冷や汗をかきながら作り笑いをする。
壮平「いや、紗奈ずっと見てただろ。気づいてたからな」
壮平、目を細め、軽蔑した顔で見る。
○(回想)告白されている場面(壮平からの視点)
女子生徒の後ろの廊下の角から、覗いてる紗奈。上半身がガッツリ見えている。
壮平、ギョッとする。
(回想終わり)
○宿泊先・廊下(夜)
紗奈「ごめんごめん。覗くつもりはなかったんだ。そこを通ろうと思っただけなの。それにしてもモテるね、壮平。2年生になって何回目?」
壮平「忘れたー」
紗奈「うわ、忘れるほど告白されたってこと? 嫌味な男〜」
紗奈、口を尖らせながら嫌味を言う。
紗奈「そういえば、壮平の好きな人って誰?」
壮平「誰でしょう」
紗奈「え、教えてくれないの?」
壮平「よく俺を見てたら簡単に分かるよ。紗奈は察しが悪すぎ」
紗奈「はいはい、観察力のない人間ですよ」
壮平「そういえば、1人でどこ行こうとしてたの?」
紗奈「お土産屋さん! みんな大浴場行ってて暇だからさ」
壮平「紗奈も大浴場行けばいいじゃん」
紗奈「……入れないんだ〜」
壮平「なんで? 潔癖じゃないだろ?」
紗奈「……生理だからさ」
壮平「……あー、そうか。わりぃーわりぃー」
壮平、照れながら頭を掻く。
壮平「俺も行くよ、暇だし」
紗奈「いいの? やった」
○宿泊先・お土産屋(夜)
紗奈「こういうところのお土産屋さんって、不思議なもの売ってたりするから楽しいよね」
壮平「(笑いながら)そうそう、これとか別にご当地でもねぇの」
壮平、可愛くない顔をした人参のマスコットのキーホルダーを持って紗奈に見せる。
紗奈「でもなんか、欲しくなっちゃって買っちゃったりするんだよね」
壮平「そうそう、でも家に持ち帰って見ると、いらなかったかもってなるんだよね」
紗奈と壮平、大笑いする。
他の宿泊者A「外、星きれいだったね〜」
他の宿泊者B「ほんとに〜! いいもの見れたね」
通りすがりの他の宿泊者の会話が聞こえる。
目を見合わせる紗奈と壮平。
(2人同時に)
紗奈「行こう!」
壮平「行くか!」
浴衣のまま宿の正面玄関を出る2人。
紗奈「寒い〜」
紗奈、両腕を前にクロスして寒そうにする。
壮平「な、見たらすぐ中入ろうぜ」
○宿泊先・屋外(夜)
2人以外誰もいない静かな空間。
空を見上げる2人。
紗奈・壮平「わぁ〜!!」
空一面に広がる星空。
紗奈「きれーい!!」
壮平「だな」
紗奈「うわー……」
目をキラキラさせながら、星空に見入っている紗奈。
その姿を見つめる壮平。
紗奈「私、今日生理で本当に良かった!」
壮平「(苦笑いしながら)単純だな。それはなによりです。でも俺も紗奈と見られて良かった」
紗奈「私も!」
壮平「あ、流れ星だ!」
紗奈「え、どこどこ!?」
壮平「うっそ〜」
紗奈「信じられない! もう!」
紗奈、頬を膨らまして怒る。
壮平「(笑いながら)でも、ほんとに俺が今、流れ星を見つけたとしても、教えた頃には流れ終わってるだろうから、自分の力で見つけるしかないんだろうな」
紗奈「え、なんか名言かも……」
紗奈、壮平に尊敬の眼差しを向ける。
壮平「え、どゆこと!?」
紗奈「“流れ星は自分の力で見つけるしかない”って、願い事は自分の力で叶えるしかないって意味でしょ? え、なんかロマンチックなことわざみたい」
壮平「(呆れた笑顔で)あのなぁ。俺は物理的な意味で言っただけだから!」
紗奈「とっても気に入った! 私の座右の銘にする!」
壮平「(大笑いしながら)まじでやめろ、感化されすぎ。あー、おもしれぇー」
紗奈と壮平、大笑いする。
壮平「でも、周りの力も頼っていいんじゃねーの? 俺ももし、次本当に流れ星見つけたら、超高速で紗奈に教えてやるよ」
紗奈「それ、光の速さと同じくらいで反応してくれるってこと?」
壮平「うん」
紗奈「(笑いながら)私も光の速さで反応しないと間に合わないよね?」
壮平「うん。問題ないだろ、俺たちなら」
紗奈「うん、そうだね」
紗奈、星空を眺める。
紗奈「あー明日楽しみだな。壮平と旅行なんて、こんなに昔から一緒にいるのに初めてじゃない?」
壮平「だな。旅行なんて普段行けないから楽しもうぜ!」
紗奈「(満面の笑みで)うん!」
壮平「寒いし、中入るか」
綺麗な星空。
紗奈M「季節は9月。高校2年生の私たちは修学旅行を来月に控えている。
先生、教卓で修学旅行の説明をしている。
先生「え〜、修学旅行は例年通り2泊3日になりますー。1日目はグループ行動、2日目は自由行動になりまーす。自由行動は2人組以上であればいいので、好きに組んでメンバーの名前を書いて提出してくださーい」
紗奈、隣の席の恵と話す。
紗奈「楽しみだなぁ、修学旅行!」
恵「私も!」
紗奈「どこ行こっか〜。食べ歩きもいいし、神社巡りも楽しそう! あ〜、楽しみすぎる〜。というか、自由行動、2人で大丈夫だった? 他に誘いたい人いる?」
恵「あのさ、陽介と話してたんだけどさ、自由行動、陽介達と一緒に回ってもいいかな? 陽介、青山くんと同じクラスで仲良いでしょ?」
紗奈「4人で回るってこと?」
恵「……うん、駄目かな?」
紗奈「良いに決まってるじゃん! せっかくだもん、彼氏と思い出作った方がいいよ! 私も壮平がいるなら気楽だし!」
恵「紗奈、ありがとう! 恩に着る!」
○コンビニ・壮平のバイト先(夕方)
壮平、レジの前で立っている。
紗奈の声「これ、くーだーさいっ!」
壮平、1 Lの牛乳と250mlサイズの紙パックの野菜ジュースをレジに通す。
壮平「340円になりま……」
壮平、目の前に紗奈がいることに気がつき、驚いた顔をする。
壮平「なんだ、紗奈か! 普通に声かけろよ〜」
壮平、苦笑いする。
紗奈「お家の牛乳きれてたから買いに来た! 6時に終わるよね? そこでお茶して待ってるね」
紗奈、コンビニのイートインスペースに座り、野菜ジュースを飲んでいる。
壮平M「お茶してるって……。コンビニのイートインスペースをお洒落なカフェのような表現で言うな」
紗奈、壮平の視線に気づいてニコッと笑う。
壮平、呆れた笑顔。
× × ×
時間経過。
○住宅街・路上(夕方)
紗奈「コンビニのバイトって、覚えること多そうで大変だよね」
壮平「最初は大変だったけど、今は慣れた。それよりも、レジ担当の時とかはずっと立ってることがキツイかも」
紗奈「確かに!ちょっと動きたいよね! あ! そういえば、陽介くんから修学旅行の話聞いた?」
壮平「ああ、一緒に回るって話だろ? 楽しみだな!」
紗奈「うん! 壮平と陽介くんが仲良しで良かったよ〜。でもさ、2人の邪魔になりそうだったらさ、途中で私たち抜けようね! ちゃんとデートしていい思い出作ってほしいもんね!」
壮平「そしたら俺らも2人きりだから、デートじゃん」
紗奈「まぁ、そういうことになるか! 私たちも楽しい思い出作ろう!」
紗奈、くしゃっと笑う。
壮平「おう」
紗奈「このあと、行きたいところ計画しよ! 7時集合ね!」
壮平「はやっ、あと20分じゃん」
壮平、可笑しそうに笑う。
○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)
20時過ぎの時計。
壮平M「7時集合って言ったやつは誰だ」
壮平、呆れた顔。
壮平「まぁいいや、遅刻なんて想定内だし、一旦寝てよ〜」
× × ×
時間経過。
○壮平の自宅玄関(夜)
紗奈、壮平の自宅のインターフォンを押す。
「ピンポーン」
紗奈「あれ? いない?」
紗奈、ドアノブを引くとドアが開く。
紗奈「あれ、鍵開いてる」
紗奈、ドアの隙間から顔だけ覗き、
紗奈「壮平〜? 入っちゃうよ〜? お邪魔しまーす」
紗奈、壮平の自宅に入る。
○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)
壮平、ベッドで寝ている。
紗奈、かがんで壮平の寝顔を見る。
紗奈M「小さい頃は一緒の布団でよく寝てたから、しょっちゅう寝顔見てたけど、こうやってまじまじ見るのって何年振りだろう」
紗奈、じっと見つめる。
壮平の綺麗な肌、高い鼻筋、サラサラの黒髪。
紗奈「綺麗な寝顔」
紗奈、壮平の頬を指でツンツンと触る。
紗奈「ふふふ。こう見ると、子どもに戻ったみたいで可愛い」
壮平、寝ぼけたまま紗奈をベッドに引き寄せて、抱きしめる。
紗奈「え、壮平!?」
壮平「好きだ……」
紗奈M「え、夢見てるの?」
壮平「どこにも行くな」
壮平の抱き締める腕に力が入る。壮平、寝ながら悲しそうな顔をしている。
紗奈M「どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?」
紗奈「……壮平? 大丈夫?」
紗奈、壮平の腕を優しく叩き、起こそうとする。
壮平の手が、紗奈の部屋着の中に入り、胸を触ろうとする。
紗奈、顔が真っ赤になる。
紗奈「ぎゃー!!」
紗奈、パンチをして壮平がベッドから落ちる。
壮平「いってぇ……」
顔をしかめる壮平。
紗奈「大丈夫? ごめん!」
ベッドのそばで、慌てて心配する紗奈。
壮平「あれ? 紗奈。いつ来たの?」
紗奈「……今!」
紗奈、顔を赤くしたまま俯き、壮平と目が合わない。
壮平「ん? これってどういう状況だった?」
冷や汗をかく壮平。
紗奈「いや、えっとその……。部屋に着いたら壮平が寝てて……、起こしたら落ちちゃったみたい……」
不自然な紗奈の様子に、焦る壮平。
壮平「俺、……もしかしてなんか紗奈にした?」
紗奈「全然全然!! なんにもなんにも!!」
顔が赤いまま慌てる紗奈を見て、凹む壮平。
壮平M「なにしたんだ、俺!」
紗奈「あっ、そうだ! 行きたいとこ調べよ〜?」
紗奈、ローテーブルの前に座り、スマートフォンを見始める。
紗奈「ここの牡蠣は絶対食べたいんだよね〜!」
壮平、紗奈の真隣に座る。
壮平「(紗奈の顔を覗き込みながら)あのさ、紗奈の顔見てたらだいたい嘘ついてることくらい分かるから。俺が紗奈になんかしちゃったんだよな? ごめんな?」
紗奈、首を横に振る。
壮平「俺何した? 教えてくれない? 知らないまま、紗奈の嫌がることしてたら俺が嫌なんだ」
紗奈、恥ずかしそうに壮平をじーっと見つめる。
壮平、見つめ返す。
紗奈、目を逸らして、
紗奈「(ボソボソした話し方で)服の中に手を入れられて、胸を触られそうになった」
壮平、顔を赤くし驚いた顔をする。
壮平、ローテーブルに顔を伏せる。
壮平「ほんとごめん。俺の想像超えてた」
壮平、凹んでブツブツ独り言を呟く。
壮平「サイテーだー。クズすぎるー。あー、消えてぇー」
紗奈「ふふふ」
紗奈、可笑しそうに笑う。
紗奈「いいよ、寝ぼけてたんだし。怒ってもないし傷ついてもないよ! びっくりはしたけどね。それに私もごめん! 思いっきり壮平のこと殴っちゃった! おあいこね!」
紗奈、ニコニコした顔で話す。
壮平「(目を逸らしながら)ごめん。……ありがとう」
紗奈「でも、壮平、欲求不満なんだね」
紗奈、ニヤニヤしながらからかう。
壮平「うっせー。健全な高2男子だわ!」
紗奈、大笑いする。
○修学旅行 1日目 大型バス・車内
紗奈M「今日から待ちに待った2泊3日の修学旅行! お天気も快晴です」
隣同士で座る紗奈と恵。
紗奈「あ〜、楽しみすぎて昨日の夜、全然寝れなかったんだよねぇ。寝不足〜」
恵「小学生か!」
紗奈「ははは」
× × ×
(フラッシュ)
博物館の中を回る紗奈と恵。巨大な恐竜の骨の再現を見上げる紗奈と恵。
× × ×
× × ×
(フラッシュ)
植物園の中を歩いている紗奈と恵。パイナップルの実をじっと観察する紗奈と恵。
× × ×
○宿泊先・部屋(夜)
紗奈「はぁ〜、楽しかった〜」
敷布団の上に座る紗奈。
紗奈M「それにしても、みんな大浴場いいなぁ。私は生理だから部屋のシャワーでサクッと終わっちゃったよ。あー、暇だな」
布団だけがたくさん敷かれた、誰もいない畳の部屋。
紗奈M「みんなしばらく帰ってこないだろうし、ホテル探索でもするか」
紗奈、浴衣を来たまま廊下に出る。
○宿泊先・廊下(夜)
紗奈M「あ、お土産屋さん見るのも楽しいじゃん、そうしよう!」
紗奈、廊下の角を曲がろうとしたとき、男女の声が聞こえて立ち止まる。こっそり覗くと、そこには壮平と、壮平と同じクラスの女子生徒が向かい合って立っている。
女子生徒「来てくれてありがとう。もう気づいてると思うんだけど、私……、青山くんのことが好きなの! 付き合ってくれませんか!」
壮平「……ありがとう。でも、ごめん」
女子生徒「なんで?」
壮平「好きな人がいるんだ」
女子生徒「それって、竹内さん?」
紗奈、驚いた顔をする。
紗奈M「私!?」
壮平「内緒」
女子生徒「そうだよね、ごめんごめん! 時間作ってくれてありがとう! おやすみ!」
壮平「おやすみ」
紗奈、また曲がり角に隠れて深呼吸をする。
紗奈M「また幼馴染の告白される現場を目撃してしまった。お土産屋さんに行きたいのに……。しょうがない、遠回りするか」
壮平「おい!」
紗奈、振り返ると壮平がいる。
紗奈「あ……、壮平! いたんだぁ! ははは」
紗奈、冷や汗をかきながら作り笑いをする。
壮平「いや、紗奈ずっと見てただろ。気づいてたからな」
壮平、目を細め、軽蔑した顔で見る。
○(回想)告白されている場面(壮平からの視点)
女子生徒の後ろの廊下の角から、覗いてる紗奈。上半身がガッツリ見えている。
壮平、ギョッとする。
(回想終わり)
○宿泊先・廊下(夜)
紗奈「ごめんごめん。覗くつもりはなかったんだ。そこを通ろうと思っただけなの。それにしてもモテるね、壮平。2年生になって何回目?」
壮平「忘れたー」
紗奈「うわ、忘れるほど告白されたってこと? 嫌味な男〜」
紗奈、口を尖らせながら嫌味を言う。
紗奈「そういえば、壮平の好きな人って誰?」
壮平「誰でしょう」
紗奈「え、教えてくれないの?」
壮平「よく俺を見てたら簡単に分かるよ。紗奈は察しが悪すぎ」
紗奈「はいはい、観察力のない人間ですよ」
壮平「そういえば、1人でどこ行こうとしてたの?」
紗奈「お土産屋さん! みんな大浴場行ってて暇だからさ」
壮平「紗奈も大浴場行けばいいじゃん」
紗奈「……入れないんだ〜」
壮平「なんで? 潔癖じゃないだろ?」
紗奈「……生理だからさ」
壮平「……あー、そうか。わりぃーわりぃー」
壮平、照れながら頭を掻く。
壮平「俺も行くよ、暇だし」
紗奈「いいの? やった」
○宿泊先・お土産屋(夜)
紗奈「こういうところのお土産屋さんって、不思議なもの売ってたりするから楽しいよね」
壮平「(笑いながら)そうそう、これとか別にご当地でもねぇの」
壮平、可愛くない顔をした人参のマスコットのキーホルダーを持って紗奈に見せる。
紗奈「でもなんか、欲しくなっちゃって買っちゃったりするんだよね」
壮平「そうそう、でも家に持ち帰って見ると、いらなかったかもってなるんだよね」
紗奈と壮平、大笑いする。
他の宿泊者A「外、星きれいだったね〜」
他の宿泊者B「ほんとに〜! いいもの見れたね」
通りすがりの他の宿泊者の会話が聞こえる。
目を見合わせる紗奈と壮平。
(2人同時に)
紗奈「行こう!」
壮平「行くか!」
浴衣のまま宿の正面玄関を出る2人。
紗奈「寒い〜」
紗奈、両腕を前にクロスして寒そうにする。
壮平「な、見たらすぐ中入ろうぜ」
○宿泊先・屋外(夜)
2人以外誰もいない静かな空間。
空を見上げる2人。
紗奈・壮平「わぁ〜!!」
空一面に広がる星空。
紗奈「きれーい!!」
壮平「だな」
紗奈「うわー……」
目をキラキラさせながら、星空に見入っている紗奈。
その姿を見つめる壮平。
紗奈「私、今日生理で本当に良かった!」
壮平「(苦笑いしながら)単純だな。それはなによりです。でも俺も紗奈と見られて良かった」
紗奈「私も!」
壮平「あ、流れ星だ!」
紗奈「え、どこどこ!?」
壮平「うっそ〜」
紗奈「信じられない! もう!」
紗奈、頬を膨らまして怒る。
壮平「(笑いながら)でも、ほんとに俺が今、流れ星を見つけたとしても、教えた頃には流れ終わってるだろうから、自分の力で見つけるしかないんだろうな」
紗奈「え、なんか名言かも……」
紗奈、壮平に尊敬の眼差しを向ける。
壮平「え、どゆこと!?」
紗奈「“流れ星は自分の力で見つけるしかない”って、願い事は自分の力で叶えるしかないって意味でしょ? え、なんかロマンチックなことわざみたい」
壮平「(呆れた笑顔で)あのなぁ。俺は物理的な意味で言っただけだから!」
紗奈「とっても気に入った! 私の座右の銘にする!」
壮平「(大笑いしながら)まじでやめろ、感化されすぎ。あー、おもしれぇー」
紗奈と壮平、大笑いする。
壮平「でも、周りの力も頼っていいんじゃねーの? 俺ももし、次本当に流れ星見つけたら、超高速で紗奈に教えてやるよ」
紗奈「それ、光の速さと同じくらいで反応してくれるってこと?」
壮平「うん」
紗奈「(笑いながら)私も光の速さで反応しないと間に合わないよね?」
壮平「うん。問題ないだろ、俺たちなら」
紗奈「うん、そうだね」
紗奈、星空を眺める。
紗奈「あー明日楽しみだな。壮平と旅行なんて、こんなに昔から一緒にいるのに初めてじゃない?」
壮平「だな。旅行なんて普段行けないから楽しもうぜ!」
紗奈「(満面の笑みで)うん!」
壮平「寒いし、中入るか」
綺麗な星空。
