永遠の愛なんて信じません!

○自宅・紗奈の部屋(夜)

紗奈、濡れたままの髪にタオルをかけ、部屋着姿。部屋の中のドアの前でしゃがみ込んでいる。

紗奈M「はぁ〜、びっくりした」

○(回想)自宅・洗面所(夜)

裸のまま洗面所で隆と鉢合わせし、叫ぶ紗奈。

隆「ご、ごめん! すぐ出るね」

隆、急いで洗面所を出ようとする。

紗奈、急いでバスタオルで体を隠し、

紗奈「あ、全然大丈夫です! 気にしないでください。 むしろ私も大声出しちゃってすみません! えへへ」

紗奈、作り笑いを浮かべる。
(回想終わり)

○自宅・紗奈の部屋(夜)

紗奈「あー、部屋が狭すぎる。こんなんじゃ、すぐ鉢合わせしちゃうよ〜」

紗奈、困った顔で頭を抱える。

紗奈「(笑顔で)あ、そうだ!」

○壮平の自宅・リビング(夜)

「ピンポーン」インターフォンの音

壮平「はい」

壮平、インターフォンに出る。

インターフォンからの声「お届けものでーす!」

壮平、呆れた笑顔で玄関に向かい、ドアを開ける。

ドアの前に紙袋を持った紗奈がニコニコしながら立っている。

紗奈「お邪魔しまーす!」

遠慮なく靴を脱いでどんどん家の中へ進む紗奈。

部屋着を着て、濡れた髪の紗奈。

壮平の横を通り過ぎる時に、「ふわっ」とシャンプーのいい香りがする。

壮平、顔を赤くしながら、

壮平「髪ぐらい乾かして来いよ」

紗奈「壮平んちのドライヤー借りるから大丈夫〜! あ、夜ご飯まだだよね〜?」

紗奈、慣れた足取りで壮平の部屋に入っていく。

壮平、顔をしかめながら頭を掻く。

○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)

紗奈、ローテーブルの前に座っている。

部屋のドアが開き、壮平がドライヤーを持って入ってくる。

壮平「はい、ドライヤー」

紗奈「ありがとう!」

壮平、ローテーブルを挟んで紗奈の向かいに座る。

壮平「もう自分の家だと思ってるだろ」

壮平、目を細めて睨む素ぶりをする。

紗奈「だって、困ったらいつでも俺んち来いよって言ってくれたもんね」

紗奈、ニヤリと笑う。

壮平「まぁ、言ったけど」

壮平M「……コイツ、俺のこと男だと思ってないだろ」

紗奈、ため息をつく。

壮平「なんかあった?」

紗奈「う〜ん。大したことじゃないんだけどね。やっぱり家が狭いからさ、お風呂上がりとかも鉢合わせしちゃったりしてさぁ」

壮平「はぁ!?」

壮平、怒った顔つきになる。

壮平「紗奈の裸、見られたのか?」

紗奈「うん、まぁ……。でも家族だしね、しょうがないよね」

壮平「まじで許さねぇ、あのくそおやじ! ちょっと今から言ってくるわ!」

壮平、立ち上がろうとする。

紗奈、必死に壮平の腕をつかんで座らせる。

紗奈「本当にただの事故なの! 隆さんは1ミリも悪くなくて、むしろ、気にしてると思う。私は大丈夫だから! ね?」

紗奈、困った笑顔を見せる。

壮平「紗奈が良くても俺が良くないの!」

壮平、イラつき始める。

壮平「あー、くそー。最近イラつくことばっかだー」

紗奈、壮平の手に自分の手を上から添えて、

紗奈「ありがとう。昔から壮平がいつも私の代わりに怒ってくれるから、私、怒りの感情すぐ飛んで行っちゃう。私が穏やかに過ごせるのは壮平のおかげ!」

紗奈、ニコニコしながら想いを伝える。

壮平「こっちは怒りでどうにかなってるんですけど!」

壮平、嫌味っぽく冗談を言う。

紗奈「うん、だからありがとうって!」

壮平「俺ばっかり、このやろー」

紗奈「ははははは」

紗奈、楽しそうに笑う。

壮平、紗奈の笑顔を見て、安心した表情を浮かべる。

紗奈「あー、なんか安心したら眠くなっちゃったぁ」

紗奈、あくびをする。

紗奈「ちょっとベッド、10分借りてもいい?」

壮平「まず髪乾かせよ! 風邪ひくぞ!」

紗奈「すぐ起きるから!」

壮平「絶対10分で起きないだろ!」

紗奈「起きる起きる〜」

紗奈、壮介のベッドに上がり、布団の中に入る。

壮平、呆れた笑顔。

壮平M「考えてみれば、安心できるはずの場所に、たとえ優しいおっさんだとしても一緒に住むことになったら、気ぃ〜張るよな。紗奈は笑顔で順応しようとしてるけど」

部屋に響く寝息。

壮平「え、もう寝た?」

壮平、紗奈の寝顔を覗き込む。

壮平「はえ〜」

壮平、呆れた顔。

壮平「髪も乾かさないで」

壮平、ドライヤーをいじる。

壮平M「弱にすれば、うるさくねぇか?」

壮平、ベッドに腰掛け、紗奈の髪を乾かす。

×  ×  ×
時間経過。

ベッドに寝たままの紗奈。寝息が聞こえる。

壮平「そういえば、何持ってきたんだ?」

壮平、紗奈が持ってきた紙袋の中のものを取り出し、ローテーブルに置く。

お弁当箱が2つある。

壮平、片方のお弁当箱を開ける。中には卵焼きが入った彩り豊かなおかずが詰め込まれている。

○(回想)今日の学校・昼休み

紗奈「また今度、卵焼き作ってお家に持っていくよ!」

(回想終わり)

壮平「律儀なやつ」

壮平、卵焼きを口に入れる。

壮平「うまっ」

壮平、お弁当を食べ始める。

○紗奈の夢の中

紗奈M「夢を見た。お母さんと1人目のお父さんと幼い私で、誕生日のお祝いをする夢」

パーティー用の三角帽子を被った家族3人。

食卓には「たんじょうび おめでとう さな」と描かれた大きなホールケーキ。

紗奈M「笑顔の私と、その私を囲む笑顔の両親」

紗奈M「海にも行った」

父親と浮き輪をつけた幼い紗奈が笑顔で海に浮かんでいる。

紗奈の母、それを砂浜から見守る。手を振り微笑む。

それに対し、大きく手を振りかえす父親と紗奈。

紗奈M「遊園地にも行った」

父親と幼い紗奈が観覧車に2人で乗っている。

外の景色を見てはしゃぐ紗奈。

それを寂しそうに眺める父親。

観覧車が地上に到着し、観覧車から降りる。

遠くで母親が待っている。

紗奈、走って母親の元へ行く。母親の元へ到着し、笑顔で振り返ると、父親の姿がない。
笑顔が消える紗奈。

紗奈M「懐かしくて寂しい気持ちになる夢だった。……いや、これは私の記憶?」

○紗奈の自宅・リビング(朝)

紗奈、起床してリビングに行く。

リビングには会社に行く準備をしている隆がいる。

隆「あ、おはよう。紗奈ちゃん」

隆、微笑みながら挨拶をする。

紗奈「おはようございます」

紗奈も微笑む。

隆「あ、紗奈ちゃんもコーヒー飲むかい?」

紗奈「私コーヒー飲めないので大丈夫です!」

隆「あ、ごめんごめん。まだ紗奈ちゃんの好み分かってなくて」

隆、苦笑いをして汗をかく。

紗奈「(申し訳なさそうな顔で)いや〜、私もお子ちゃま舌で! すみません」

紗奈、気を遣うように明るく振る舞う。

隆「いや、ごめんごめん」

お互いが気を遣い、ぎこちない雰囲気。

○学校・教室(放課後)

紗奈と恵、隣同士で席についている。

紗奈「気を遣わせない気の遣い方ってどうすればいいの?」

恵「何? 新しいお父さん?」

紗奈「うん。すごく良い人で、私のことも気にかけてくれるんだけど、なんかいつもギクシャクしちゃって……。やっぱり、いきなり家族になるって難しいよね」

恵「そうだねぇ」

恵、何かを考えている様子。

恵「そうだ。新しいお父さんを、青山くんだと思って接してみれば自然なんじゃない?」

紗奈「え、壮平?」

紗奈、眉間に皺を寄せて首を傾ける。

恵「だって、紗奈と青山くんって、家族じゃないけど家族みたいじゃん」

紗奈「……確かに」

紗奈、納得して何度も頷く。

紗奈「あ、もうこんな時間だ! 美化委員会に行かなきゃ! 恵、話聞いてくれてありがとう!」

紗奈、ニコニコしながら手を振り、教室を出る。

○学校・違うクラスの教室(放課後)

紗奈、窓際の席に座って外を見ている。

グラウンドに、ユニフォーム姿のサッカー部員たちに混ざって、制服でサッカーをしている壮平を見つける。生き生きした表情でドリブルしている。

紗奈、嬉しそうに壮平の姿を見つめる。

南沢の声「あれ? 紗奈ちゃん?」

紗奈、振り返って隣の席を見る。南沢が隣の席に座っている。

紗奈「……!?」

紗奈、顔を赤くして驚いた表情。

南沢「(優しい笑顔で)久しぶり」

紗奈「……なんで隣に座るんですか」

紗奈、目を合わせず怒り気味にぼそぼそ話す。

南沢「もっと紗奈ちゃんのことが知りたいから!」

紗奈「私はあなたのこと、知りたくありません。それに、なんで名前知ってるんですか」

南沢「(ニコリと笑いながら)なんででしょう。あ、俺、南沢蓮っていうから! よろしく!」

紗奈、虚無の顔になる。

南沢「(ニコニコしながら)紗奈ちゃんは、壮平のこと好きなの?」

紗奈「好きです。……幼馴染として」

南沢「良かった、俺の付け入る隙ありそう」

紗奈、虚無の顔になる。

先生が教室に入ってくる。

先生「はーい、始めるぞー。もう、概要はプリントにまとめておいたから各自見ておくようにー。じゃあ、さくっと担当決めておしまいにするぞー。まずは、花壇の植え替え2名!」

南沢「はい!」

先生「お、テンポが良くて助かるなぁ。あと1人は……」

南沢「紗奈ちゃんもやります!」

南沢、紗奈の手首を掴んで、勝手に上に挙げる。

紗奈「え……?」

南沢の方を向いて、驚く紗奈。

先生「おー、今年の美化委員さんたちは積極的でいいねー」

紗奈「……え?」

南沢、ニコニコしながら紗奈を見つめる。

○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)

部屋着姿の紗奈と壮平、ローテーブルを挟んで向かい合って座っている。ローテーブルの上には問題集が広がっている。

紗奈「あー、いっつもここ間違える!」

壮平「どこ?」

紗奈「ここ〜」

壮平「あぁ、これはこうすればいいだけだよ」

壮平、紗奈のノートにシャーペンで書き込む。

紗奈M「私たちは、中学生の頃からよくこうやって一緒に勉強をしている。これは、私が前を向いて生きていくために壮平が導いてくれたものだった」

○(回想)公園・砂場(7歳の頃)

紗奈M「お母さんの2回目の結婚の時」

紗奈「あーん、あーん」

紗奈、大声をあげながら大粒の涙を流す。

壮平、隣で無言で見つめている。

紗奈「紗奈のお父さんは、1人だけなのに〜! 新しいお父さん好きじゃない〜! 声大きいし、優しくないし、とにかく好きじゃない〜!」

壮平「俺が楽しいこと見つけてやるよ、これ見てろよ」

壮平、砂場に山やトンネル、学校、川などリアルな街を作っていく。

紗奈「わぁ〜、壮平、すご〜い! ねぇ、私たちのアパートも作って!」

壮平「おう! じゃあ、紗奈はジョウロに水汲んできて、川に流してくれ!」

紗奈「(キラキラ輝いた笑顔で)うん!」

(回想終わり)

○(回想)壮平の自宅・壮平の部屋(7歳の頃)

台所の前に立つ紗奈と壮平。目の前には、竹串がついたべっこう飴がある。

紗奈「わ〜、飴って水と砂糖だけで作れるんだ〜! すご〜い!」

紗奈の様子を、安心した表情で見つめる壮平。

紗奈、竹串を持ってべっこう飴を口に入れる。

紗奈「あま〜い! 今まで食べた飴の中で一番おいしい〜!」

紗奈、キラキラ輝いた笑顔で嬉しそうに飴を舐める。

紗奈M「壮平は、悲しい気持ちさえ忘れさせてしまうほど、いつも私を笑顔にさせてくれた」

(回想終わり)

○(回想)公園・ブランコ(12歳の頃)

紗奈M「お母さんの3回目の結婚の時もそうだった」

紗奈と壮平、中学校の制服を来て、お互いブランコに座っている。

紗奈「あ〜、早くお家出たいなぁ。中学校卒業したら、就職しちゃおうかな?」

壮平「長い目で見たら、大学まで学んだ方が金銭的にも自立できんじゃね?」

(回想終わり)

○(回想)図書館(12歳の頃)

紗奈と壮平、図書館の机に向かい合って座っている。机の上には、分厚い本がたくさん置かれている。

紗奈、“収入の高い職業ランキング”という題名の本を読んでいる。
壮平、“今話題! 就職に有利な大学一覧”という題名の本を呼んでいる。

紗奈「パイロット、医師、弁護士……。(大きな声で)年収1500万円行くこともあるの!?」

周囲の人たちが紗奈に注目する。

壮平「声でけーよ」

壮平、笑いを堪える。

紗奈「ごめん、びっくりしちゃって。(キラキラした笑顔で)夢あるね!」

壮平「でも、どれも学費が高いな。しかも就職するまで大学4年間で終わらない」

紗奈「ん〜、この中だったら私は弁護士になりたいな〜」

紗奈、壮平の話を聞かず1人で盛り上がる。

壮平「法学部か……。いいんじゃね? 弁護士になるかは別として、法律学んでたら自分のことも守れそうだし、就職強そうだし。……いい進路かもしれないぞ」

紗奈「ほんと? じゃあ私、法学部に入って弁護士になる!」

壮平「法学部に入れば、弁護士になれるわけじゃないからな。まず高額な費用の問題をクリアしないといけないし、あと、司法試験っていうのも合格しないといけない」

紗奈「ふーん」

壮平「(手元の本を見ながら)……上林大学の法学部が優秀らしいよ、弁護士になった人も多いし、その他の就職先も大手で高給取りだ」

紗奈「じゃあ、決めた! 上林大学の法学部に入って弁護士になって、自立したかっこいい大人になる!」

壮平「……志、高くさせすぎたか? まぁ、高い方がいいか」

壮平、苦笑いする。

(回想終わり)

○壮平の自宅・壮平の部屋(夜)

紗奈M「いつも壮平は正しい方法で私を引っ張り上げてくれる。今の私がいるのは、間違いなく壮平のおかげ。ワクワクする夢を持てたことで、前を向いて進んでいける」

勉強を教えてくれている壮平を、じっとみつめる紗奈。

壮平「(迷惑そうな顔で)なんだよ」

紗奈「(ニコニコしながら)私、壮平と幼馴染になれて良かった」

壮平「(複雑な顔をして)俺は幼馴染なんかじゃなければ良かった」

紗奈、口を膨らます。

紗奈「照れちゃってさ〜。 あ、そうだ! 今度の模試受けるよね?」

壮平「おう」

紗奈「はぁ〜、今度は上林大学をC判定まで上げたいな。壮平は上林大学、A判定でしょ? あと1年勉強できる時間があるんだから、もっと偏差値高いところ目指したら?」

壮平「俺の進路にかまってる暇あったら、勉強しろ〜」

紗奈「ねぇ、次の模試で上林大学がB判定まで上がったら、なんかご褒美ちょうだい!」

壮平なに」

紗奈「駅前のクレープ!」

壮平「そんなんでいいのかよ」

壮平、笑う。