今日はあの少年にしよう。平凡な家(だと思う)に住んでいる平凡な少年(だと思う)。健康そうな体で背が高い。日常的に運動をしているのだろうな。きっとあの子も喜ぶ。習得に三年もかかった、音を立てずにガラスを割る技術を使って部屋に入る。彼を抱えて家の外に出る。人を一人抱えて民家の家の屋根を歩けるようになるのに二年、走れるようになるのに二年かかった。時間をかけて習得した技術は今の生活に欠かせない。あの事暮らし始めてはや六年。最初は戸惑うことも多かったけれど、今はご飯もきちんと準備できる。唯一無二の私の友達だ。毎日ご飯を連れていって、話しかけるうちにお互いに話せるようになった。おっと、少年が気づきかけている。周囲には誰もいない(民家の家の上なのだから当然といえば当然)。右足首のブレスレットから魔法陣を開く。魔力の流れが髪を揺らす。この感覚が好きなんだよね。さあ、あの子のもとへ。
「いい子にしてた?ご飯を連れてきたからね。ちょっと運動させてくれる?」
「うん!」
 少年をこの子の口の中に作った迷路の中におく。家とここをゲートでつなげて、斧を取り出す。愛用の戦斧だ。銀色の美しさに一目惚れして衝動買いしてしまった。今では私の一番の宝物だ。前はこれで獲物を倒していたけれど、今ではあの子のご飯への威嚇にしか使わない。とりあえず、今日もご飯を起こして声をかける。
「ねえ、鬼ごっこしない?」
「は?」
まあ、当然の反応。脅かすために、斧を見せつけるように持ち直す。彼は悲鳴をあげて逃げ出した。十数えて、追いかける。彼はなかなか足が速いな。ポーションで体力を回復させながら走る。それでも斧が重く、腕が痛い。まあ、別に単なる運動だから、やめてければやめればいいんだけれど。少しでも距離を詰めようとして全力で走ったら疲れてしまった。しばらく休む。いつの間にやら彼とかなりの距離が開いてしまった。この迷路の壁は特別な薬で溶かしたり、形を変えたりすることができる。だからここの壁を溶かしてっと、あ、ミスった。輪っか状の壁の一部分に穴を開けてしまった。少年はとても驚いている。まあ、いいか。少し走って。追いついて。
「捕まえた」
壁を飛び越えると、私はあの子のもとへ。
「もう食べてもいいよ、ミミちゃん」