俺は走っていた。いや、逃げていた。迫りくる死からは必ず逃げ切れるはずだから。俺は語り手、つまり主人公だ。ということは死なないはずだろ?考えることはずっと同じ、なんでこんなことになったんだ、ここはどこであの女は誰なんだ。背後から迫る死は斧を持った女だった。ショートの黒髪も異世界転生モノの主人公が着ていそうな服も不気味にしか見えない。君もでかい斧を持った若い美女に追いかけまわされれば俺の気持ちが分かるさ。俺自身もこれがどんな状況か分かっていないがこれは多分自力じゃどうにもなんねえ。自分の部屋で寝たはずが、斧を持った知らない女に起こされたんだ。そのうえ、
「ねえ、鬼ごっこしない?」
なんて言われれば誰だって不安になるだろ?そのうえ鬼ごっこをするのは迷路の中で壁も乗り越えられないほど高いんんじゃ絶望するしかねえ。それでも少しでも生き残る確率を上げるために俺は走るんだ。
 何時間走ったのか。あの独特のかたい足音がしねえ。少し休憩...する暇もねえじゃん。また鬼ごっこだ。俺はサッカー部だからけっこう体力があると思っていた。なのにあの女は息ひとつ切らしてない。あんな重そうな斧を持っておいて、あの細い体のどこにそんな体力があるんだ。こっちは疲れてきたってのにあの女のほうはずっと同じ速度で走っている。信じられないけど、考えてる暇はない。こっちは疲れてきたのに無効はずっと同じ速度で走ってる。つまりは距離がだんだんと縮まっているわけだ。何度角を曲がっても、すぐ後ろにいる。何度角を曲がっても、何度角を曲がってmん?ありえない。今俺は出口が一つしかない輪っか状の道にいる。少しでもあいつから離れたかったから。それなのなぜに、あいつは出口と反対側の入り口に最初からいるんだ?考えられることは二つ。1、この壁は仕掛けがあって動かせる。2、あいつは瞬間移動ができる。でも壁が動いた形跡はない。
 まさかあいつはテレポートができるのか?!それなら俺が逃げ切れるところはない_なんて考えたくない。意地でも逃げ切ってやる。こんなところで訳も分からないまま死んでたまるか!何が何でもどんな手段を使っても逃げ切ってみせr
「捕まえた」
嘘だろ。俺の決意は無駄なのか?ていうかなんで普通の鬼ごっこみたいに手でタッチなんだよ。てっきり斧で切られると思ったのに。しかもなぜか服に不釣り合いなレースの黒い手袋をはめているし。そのせいで一瞬可愛い人だと思ってしまった。力が抜けて思わずへたり込んでしまう。
 そのとき、世界が暗くなった。どこだかわからないが、この建物全体が真っ暗になった。後には自分の口から発せられてるとは思えない声が響いていた。