九条先輩の甘い溺愛

3時50分。花音と3時間前くらいに会った場所の近くで隠れていた。
嫌な予感というものは常に当たる。けど、今回だけはどうか外れていてほしい。


秒針の音と心臓の音が交互に聞こえる。だんだん早くなっていく心臓の音を感じながら、ゆっくりと深呼吸をする。



「待ってましたよ、先輩」



花音のそんな声が聞こえて息をのむ。先輩って……。
少しのぞいてみると、透先輩と花音が2人っきりで会っていた。


この距離じゃ全然会話が聞こえない。
なんで先輩は私に嘘をついたの?なんで、花音と会っているの?


この状況をすぐ理解するのは厳しかった。
ただ、何かを渡して先輩とキスをした瞬間だけが目にしっかりと入ってきた。


それからの記憶なんてない。見たくない。思い出したくない、忘れたい。
走って、走って、気が付いたらいつもの裏庭だった。


見たくなかった……。



「信じてたのにっ……」



涙がとまらない。花音との問題も今日片付けて、明日先輩にちゃんと告白しようと思っていたのに。
なんでこんな残酷なことをするんですか。


私の感情を表したかのように、ぽつぽつと降ってきた雨。もう雨に濡れるなんてそんなことを気にしている余裕はなかった。