九条先輩の甘い溺愛

「あんたも私と話がしたかったんでしょう?」



花音は裏庭のベンチに腰をかけて棘をさすような口調で喋りながらこちらを見る。



「私たちお互いに誤解があるんだと思う」


「はっ……誤解ですって?一体どこに誤解なんてあるのかしら」


「あんたが私に全部押し付けて楽して、男に被害者ぶってかばってもらってるようにしか見えないんだけど」


「ちがっ……!」


「なにも違くないのよ!私ばっかり!全部、全部!1人だけ自由になってんじゃないわよ!」



っ……。
見ないフリをした。知らないフリをした。
花音が私の分まで全部背負わされていたことも。必死にお父様の要望に応え続けていたこと。


ただ、私だって努力した。たくさん努力をした。花音との実力の差で諦めてしまって、全部を背負わせた責任は私にある。それは十分理解している。


でも、私は家にだって学校にだって居場所がなかった。苦しかった。どれだけ努力しても辿り着けない壁と学校での中傷に耐え続けることが。


花音の言われたとおりにしてれば、いつか花音も私を許してくれるんじゃないかって馬鹿なことを考えて。



「全部を押しつけてしまったことはとても反省してる。でも、私だって居場所が欲しかった!お父様に褒められてる花音が羨ましかった!」


「褒められてる……?一体いつの話をしてるのよ。笑わせないで。……やっぱり、あんたと話なんてできない」



そう言い残して、花音は帰ってしまった。
全て上手くいくわけない、よね……。