九条先輩の甘い溺愛

いた……。
急ぎ足で向かうと、渡瀬さんが荷物の仕分けをテキパキとこなしていた。



「……手伝います」


「あれ?来てくれたんだ」


「別にあなたのためじゃないです」


「俺より九条先輩が大事だから?」


「それは関係なっ……」



否定しようとした瞬間、壁に追い詰められて自然と目が合う。



「あるよ。だって俺の方が乙葉のことずっと好きだったし、ずっと乙葉だけを見てたのに。あの女のせいで乙葉が変な噂広められてるのも知ってるし、助けたいって思ったんだ。……なぁ、俺じゃダメなのか?」


「わっ、私は……」


「乙葉が本当は優しいのもわかってるよ。だから俺のところに今来たんだろ?嬉しかった。あいつのほうに行ったら、俺は何にも残らない。乙葉が全てなんだよ」



私とこの人はどこか似てる気がする。
いつも偽りの仮面を被って、自分を作り上げる。


ただ、傍にいて自分を認めてくれる人が欲しいんだ。私が先輩を好きになったように。



「私じゃ、君の傍にはいられない」


「どうしても……なのか?」


「……うん、ごめんなさい。でもきっとあなたにも、あなたを認めてくれる良い人がきっといる」



私がそう話すと、少し笑って私から一歩離れた。



「そっか。そうだよね。俺の気持ちを押し付けてごめん」


「隣には居られないけど、近くにはいれる。……私たち友達になろう?」


「……ありがとう」



彼はそう言って、ポロっと涙を流して何かが吹っ切れたように微笑んだ。