「――やっぱりもっとはやくこっちに来るべきだった。乙葉に変な男がまとわりついてるなんて、考えたくもない」
なにかぶつぶつと呟いているけど、うまく聞き取れない。
「で?いつまで乙葉に触ってんだよ」
先輩が渡瀬さんの腕をつかんで、私から離れさせる。
「俺は乙葉のものなんだから、触るくらいなんてことないだろ」
この空気はどうすれば……。
ピリついた空気の中、無言の時間が流れていると、どこからか数人の足音が聞こえてきた。
「あの悪女がまた男をたぶらかしてるって噂を聞いたから来てみれば本当だなんて、笑っちゃうわね」
「最近はなんかおとなしいと思っていたけど、性根は変わらないのよ」
花音……。
私の視線の先には数人の女子に囲まれて、不安そうな表情でこちらを見つめる花音の姿があった。
「あ……涼太さん!最近お会いできてなかったのでうれしいです」
花音が花を咲かせたような微笑みを渡瀬さんに向けた。
この人もどうせ花音の方に行く。いつもそうだから。
「……お前、誰だっけ?」
渡瀬さんのその言葉に周りが一気に凍り付く。
花音なんか、微笑んだまま固まってる。
私が仲裁に入るなんてことをすれば、花音が黙っていないだろうし、私はどうしたら……。
「あら、忘れてしまうなんて悲しいです。涼太さんの許嫁、花宮花音と申します」
え……?今許嫁って……。
先輩の方をちらっと見ると、驚いた表情で固まっていた。
つまり、私じゃなくて花音の許嫁であるのに嘘をついていたってこと?
なんのために……?
「はぁ……。俺は乙葉との婚約を望んでいると、何度もそちらに連絡したはずなんだけど」
「っ……。乙葉は……私の妹にあたりますので、両家との良い関係を築くためとお考えなさってください」
花音の顔が見れない。この後何をされるんだろう。
棘のような視線を感じながらも、気が付かないフリをして下を向く。
周りがだんだんと騒がしくなってきて、周りを少し見てみれば人だかりができ始めていた。
「少し騒がしくなってきたようなので、また後日お話ししましょう涼太さん」
花音も周りの状況を見て、判断したみたい。
「俺は話すことなんてないんだけど」
「……それでは失礼します」
いつもの微笑みが少し引きつりながらも、その場を後にした。
取り巻きの女子たちは、どうやって宥めるんだろうか。
