九条先輩の甘い溺愛

「花音って誰?」


「はっ……?」



本当にわからないといった表情を向ける彼に戸惑い、思わず一歩離れる。
何を言っているの……この人。



「……花音は私の姉ですよ。許嫁の姉くらい知っているものでしょう?」


「乙葉以外に興味がないなら、知らなくて当然だろ?」



他のことなんて心底どうでもいいと言いたげな顔。
話したことすら殆どない私に、なんでそんなに……。



「俺は乙葉のものだし、乙葉の言葉しか聞かない。全部全部乙葉が決めていいし、俺のことを利用したって良い」


「じゃあ、私が婚約を破棄しようって言ったら?」


「俺のすべては乙葉のものだから。乙葉がそうしたいのなら、それでいいよ」



なんでそんな余裕そうな表情なの……?
まるで私がそんなことを絶対考えないと確信を持っているような。この違和感は、一体何?



「私は許嫁だって知らないし。関係ないわ」



立ち去ろうとした瞬間、後ろから抱きしめられて引きとめられる。



「親が決めた婚約を破棄なんてしたら、君の立場は危うくなるよ?」


「まさか私を脅してるの?」


「脅しなんて大層なものじゃない。ただ、俺は君を愛してるから。君を守りたいだけだよ」


「そう言う男が一番信用できないのよ」



腕を振り払って歩き出すと、また引きとめられることはなかった。


愛してるだなんて簡単に言う人を誰が信じるって言うの。



「先輩、会いたいです……」



先輩がいてくれたら願いだなんてどうでもよくなるのに。
これは執着……なのかな。それとも好きだから?


私自身なのに、私の気持ちがわからない。