「はい、じゃあ挨拶してくれ」
「渡瀬涼太です。これからよろしくお願いします」
女子たちの黄色い歓声が響く中、私は一人絶望していた。
なんで私のクラスに来るのよ……。
「乙葉。またすぐ会えるって言ったろ?」
「私に話しかけないで」
私の反応に驚いたのか一瞬目を見開くと、すぐに何かを理解したかのようにいつもの微笑みに戻って自分の席へ歩いて行った。
何を考えているのか全くわからない。だからこそ恐ろしい。
「何あの女。転校生に優しくする心すらないのね」
「優しいって言葉があれほど似合わない女いないだろ」
これは私じゃないんだから。傷つくことなんてない。傷つかなくていい。
生きるための殻なんだ。
許嫁だかなんだか知らないけど、これで関わらないほうがいいってわかるだろう。
「……」
周りをよく見ている人ほどこの状況に理解できるはず。
黙りこくった様子を横目で確認して、私は教室を出た。
